先日に訪れたブックオフで購入した一冊は、田村義也さんが装丁したもので
ありまして、値段が安かったせいもありまして買うことになりです。
1989年の作品集で、八木さんは80歳目前、田村さんはおいくつだったので
しょう。版元は福武書店です。福武が文芸書を出してくれていたときは良かった
なと思うこと。その時代には、こういうのはあたりまえのことと思っていましたが、
最近にブックオフなどで福武文庫などをみつけると、ついつい手が伸びてしまい
ます。特に田村義也さんが装丁を手がけたものでありましたら、なおのこと。
八木さんは全集が福武から出ていて、その装丁も田村さんが担当していま
す。これについては、過去に話題としていることがありました。
https://vzf12576.hatenablog.com/entry/20080422
せっかくでありますので、「夕虹」に収録の作品をいくつか読んでみることに
しました。冒頭におかれている「陽だまり」という作品ですが、その主人公が
働いていたところについて、次のように書いています、
「そのころ、記代はK市の歓楽街のはずれにある小料理屋『玉川』に勤めてい
た。表向きは小料理屋ということになっているが、実態は酒を飲ませるよりも
女の体を売る方が主な商売の店である。現在ではこの辺り一帯が大規模な
ソープランド街になってしまったが、十五年ほど前、記代が都内の飲み屋を
転々とした末、K市のこの『玉川』に流れ着いたころは、こういう店が何十軒か
ひと塊りになって特殊な一廓をつくっていた。ちょうど日本の経済が高度成長
期にさしかかっている時期であったから、すぐ近くに京浜の臨海工業地帯を
ひかえたこのK市の歓楽街も思わぬ景気に潤っていた。」
この女性は、この店に15年間勤めたあと、自分で店をもつことになるので
すが、その時には40歳であったとのことです。もちろん、自分の店も同じよう
な営業内容であったようです。
高度成長期を迎えたころにK市で働き始め、それから15年でありますから、
昭和50年代のなか頃くらいと考えればいいのでしょうか。1911年生まれの
八木さんは、まったく違和感なしで上のように書いているのですが、40歳ほど
若い当方には、ほとんど同時代の話とは思えないことであります。