八木義徳全集 福武書店

 八木義徳全集は90年に刊行開始とありますが、新刊当時の価格は1冊4千円以上で
あります。いまとなっては、りっぱな造本で決して高く感じませんが、当時は手がでな
かったでしょうね。(もともと八木さんにはあまり関心がありませんでしたので。)
田村義也さんの装幀は、とても力のはいったもので、「ゆの字ものがたり」(新宿書房刊)
でも、30ページがさかれています。この「八木義徳本を装丁する」という文章は、八木
さんの地元室蘭の文芸協会からの求めによって書かれたものですが、掲載された「室蘭
文芸」という本を眼にした人は、地元の方と、一部の八木義徳ファン以外はほとんど
いないでしょうが、「ゆの字ものがたり」に収録されたことで、田村ファンの目にもとまる
ことになりました。八木義徳さんのファンが田村さんのファンになって、安岡章太郎
作品を手にとるなんてこともあるでしょうが、それよりも田村ファンが、装丁にひかれて
八木作品に親しむということのほうが多いでしょうよ。
「 八木全集の文字づくりを始めた。明朝体の写植を打ってもらって手をいれるのだが、
 どうもうまくいかない。『八木』の画数がすくないのに、『義徳』の方は画数が多くて
 思いのである。・・全集本の背には同じ文字がずらりと並ぶわけで、そのときのイメージが
 どうなるかを考えるのが先決問題である。
  結局、わたしは毛筆様の書き文字をつくることにした。作業はきつくなるが、うまく
 いけば、文字と文字を互いに入り込ませたり、文字の大小や太さをかなり自在に調節する
 ことができるからだ。・・
著者または著作に対する、ある種の愛情というべきものがないと、とても『書き文字』は
 書けないし、書く気になれない・・と今でも自分をかえりみて思う。」
 この文章に引き続き、各巻によって厚さがことなるのをどのように同じような印象に
背文字をみせるかとか、染め布とクロスのことについての田村さんのこだわりなどが
書かれているのでした。
 この文章は、田村さんが装丁した八木全集への、なによりの作品解説となているので
ありました。