返して借りる

 返してまた借りるというと、なんとなく自転車操業という言葉を思い浮かべる

ことですが、この場合はサラ金ではなくて、図書館の本のことであります。

本日に返却期限をむかえた三冊を返して、また三冊借りてきました。

 そのうちの一冊の目次をみていたら、「切断する傍点」というタイトルの文章が

あって、それは金井美恵子さんの「重箱のすみ」についてのエッセイでした。

この本はデザイナーの鈴木一誌さんのものです。

  鈴木さんは、1970年代のはじめからデザイナー 杉浦康平さんのアシスタント

をつとめていて、その昔の雑誌「遊」などは、どうやら鈴木さんの仕事であったようで

す。この本は、ブックデザイナーとしての鈴木一誌さんに関心があって借りたのです

が、まず読んでみようと思ったのは、金井美恵子さんについて書かれたエッセイで

あります。書き出し、このようになります。

「『重箱のすみ』(講談社 1998年)の著者には脂漏性皮膚炎という持病がある

そうだが、それがほんとうか、いまでもそうなのか、山田風太郎と同じ病名をもちた

くてそう書いているのかはどうでもよい。当書に収められた『シワか皮膚炎か』と

題されたエッセイで、ある新聞の日曜版にその病気についての健康相談が載って

いることに触れている。」

 この文章は1998年に「図書新聞」に掲載のものでありますが、金井美恵子さん

が「脂漏性皮膚炎」であったということが、「ほんとうかいまでもそうなのか」はどう

でもよろしくないですね。

 ということで、ここで話題となっている「シワか皮膚炎か」という文章にあたって

みることにです。この文章は1994年日経夕刊に連載のコラムが初出のようであり

ます。この時の金井美恵子さんは、47歳くらいでありますか。

 金井さんの文章からです。

脂漏性皮膚炎というものは、決して重症という程の症状にならないかわりに、

ちょっとしたストレスで、顔面やクビに皮膚が大豆粒くらいの大きさの斑点状に

赤く微かに腫れてむずがゆくなるのが厄介である。・・・・

 脂漏性皮膚炎の症状があらわれるようになってもう四、五年になるのだが、私

の場合、まだ治りそうとは思えない。太陽光線にかぎらず光に当ると赤い斑点が

出るのが特徴で、たとえば卓上スタンドを点けて原稿を書いていると、急に顔が

かゆく熱っぽくなり、二、三日後には赤く晴れた部分がカサカサに粉をふいたよ

うな状態になる。」

 金井さんのこのくだりを読んで、当方は金井さんと同じ病名で通院しているこ

とを喜んだのでありますね。金井さんが書いている症状は、当方も同じでありま

して、金井さんだけではなく、山田風太郎さんもそうでありましたか。(山田さんに

ついては、鈴木さんの文章にでてきて、金井さんは触れていませんが)

 しかし、脂漏性皮膚炎というには、老人性であると思っていた当方は、金井さん

の発症が四十代に入って間もないことに驚きました。

 金井さんは、新聞日曜版の健康相談の欄にのっていた「中年女性の脂漏性

皮膚炎」についての回答が、目新しいことは何も書かれていなくて、しかも回答は、

ナンセンスでまったく回答になっていないと怒っているのでありますが、それは

読んでのお楽しみか。 

重箱のすみ

重箱のすみ