余禄あり

 昨日から小さな来客がありで、そのたまに生活のリズムが狂っています。

小さな来客中心の生活となりますので、本を読むのも思うにまかせません。

そんなこともあって、昨日から辻原登さんの短編集「不意撃ち」を読んでいる

のでありました。

 これに収録の作品を読んでいましたら、本筋とは直接関係のないところで、

そうであるかと参考になることがありました。こういうのを「余禄あり」とでも

いうのかな。「余禄」なんて、最近はほとんど耳にしない言葉でありますね。

 それは「いかなる因果にて」という短編にある、次のくだりです。

どうしてこのような会話がでてくるのは、小説を読んでいただくとして、登場人

物の発言です。

那智吉田秀和の墓があるらしいんだ。彼のお父さんは新宮の出身で、

先祖の墓はもともと新宮市内にあったらしいが、その後那智に移された。

吉田秀和は、先に亡くなったドイツ人の奥さんのバルバラさんを那智に葬っ

た。そして、本人の遺骨も鎌倉から運ばれて、那智の墓に収められたという

記事を読んだことがある。今、そのことを思い出してね」

 辻原さんの作品でありますので、登場人物が吉田秀和さんに言及しても

不思議でもなんでもなしですが、これにはちょっと驚きました。

 検索をしてみましたら、吉田秀和さんは連載していた「音楽展望」に新宮

は父祖の地であると書いてあるとのことです。しばらく休載して再開後のこと

ですから、この回は、当方も読んでいるはずですが、吉田秀和さんと新宮の

ことは、まったく記憶に残っていませんでした。

 ということで、この作品は吉田秀和さんのお墓を探してお参りをする話で

終わることになります。「佐藤春夫記念館」で調べてくれて、連絡をもらった

のですが、その場所とは、「那智の川関というところで、バイパスのトンネルの

すぐ近くです。お寺は天与寺というそうですが、いまは無住寺となっているとの

ことです。」とありました。

 那智に行ったら滝の見物だけでなく、吉田秀和さんの墓参りという楽しみも

あるということを、この作品で知りました。

不意撃ち