あいさつ指南書  7

 丸谷才一さんが、吉田秀和さんに関連したあいさつは、ほかに次のものがありました。
 90年9月26日吉田秀和喜寿の会での祝辞
      「完全な批評家とは何か」 (「挨拶はたいへんだ」 )
 97年2月19日吉田秀和氏「文化功労者」をお祝いする会での祝辞
      「ハモニカで吹く闘牛士の歌からはじまる」(「挨拶はたいへんだ」 ) 
 07年2月6日 吉田秀和 文化勲章を祝う会での祝辞
      「わが文章の師」    ( 「あいさつは一仕事」 ) 
 08年10月4日 吉田秀和 音楽を言葉に展 レセプション祝辞
      「偉い人はついている」 ( 「あいさつは一仕事」 )

 昨日の祝辞は75年12月のものですから、それから30年にわたり吉田秀和さんの大きな
節目となるお祝いの時に丸谷さんが、祝辞を行っているように思います。
丸谷さんにとっては、これだけ大きな存在であるのですから、本来であれば、批評家と
しての吉田秀和さんについてのまとまった文章を残していてもいいのですが(たぶん、
ないと思うのですが、積ん読になっているなかにあるのかもしれません。)、ここに
語られていることを再構成しますと、評論ができそうであります。
 吉田秀和さんは、丸谷さんが理想とする批評家に、日本人としては一番近い人で
あるようです。
最新刊の「あいさつは一仕事」にある「偉い人はついている」というのは、批評家は
時代にも恵まれなくては活躍できないといっているのですが、その前にもちろん立派
な業績があってのことです。
 これの前文には、次のように記されています。
「ずいぶん以前のことである。篠田一士が、さも重大なことに気がついたような口調
でいった。
小林秀雄が日本の文学好きに尊敬されている度合より、吉田秀和が音楽好きに尊敬さ
れている度合のほうが、ずっと上かもしれないな。』
 わたしは答えた。
『そうだろ』
 あんまり当り前すぎて話をつづける気にならなかった。
 第一、文学とか音楽とかの肩書を抜きにしても、偉さがまるで違うと思っている。
もちろん吉田さんがぐんと上なのだ。」 
 これって最大級のほめ言葉でありますね。篠田一士さんが、吉田秀和さんについて
の文章「批評のスティルを求めて」がありました。これなどは、批評家 吉田秀和
ついて書かれた最も早い時代の文章ではなかったでしょうか。