気分をかえて

 今ほどまでテニスの全豪オープン女子ファイナルを見物でありました。

音を消して息をひそめて大坂さんの試合を応援ですが、めでたく厳しい試合

をものにして、拍手であります。

 たぶん、大坂さんの母は北海道は根室の人でありまして、結婚した相手が

よろしくないと実家とは関係が途絶えていたようですが、孫娘の活躍のせいで

関係は修復どころか、自慢の娘孫ということになったようです。めでたしめでた

しです。国とはなにか、国籍とはなにかと思うことですが、グローバル企業と

同じで、国境をこえる存在です。(たぶん、彼女にとってもオリンピックの時だけ

は、どこかの国の代表とならなくてはいけないので、その時はどこかの国の旗

を背負うのかな。)

 大坂さんの優勝に気分を良くして、このところ伝記とかノンフィクションが続

いていましたので、小説を読んでみようとなりました。昨日に手にしてた「荷風

随筆」のせいでもあります。

 「荷風随筆一」には、「谷崎潤一郎氏の作品」という短いエッセイがありです。

これを読んでみると谷崎作品を読んでみたくなること請け合いです。

「自分は谷崎氏ほど其の云はんとするに當って、先ず云ふべき処の何物たるか

を反省し、然る後最も適切なる辞句を選び出して、泰然自若として此れを筆に

する人は恐らく他にあるまいと思ふ位である。・・

 其れ故作品の内容が極めて病的傾向を示す場合にも、其の辞句は依然と

して明確に文脈は整然として乱れず、頗る簡勁雄渾の筆致を現はす事がある

が、此れは矢張り『同情と透徹と、冷静と情熱との一見矛盾した両極を、巧みに

調和して』行く都会気質の一面かも知れない。」

 「極めて病的傾向を示す」とありますので、やはり常識人はついていくのが

大変であったのでしょうね。

 ということで、古い新書版「谷崎潤一郎全集」を抜き出してきて、そこから

「神童」を読んでみることにです。なんといっても谷崎は稀代のストリーテラーで

ありますので面白い、面白い。

 新書版「谷崎潤一郎全集」第五巻の月報には、そのころ第三回中央公論

新人賞を受けたばっかりの作家 福田章二さんが「徹底した『放棄』の印象」

という文章を寄せています。これからまもなくして作家 福田章二さんは姿を

消すことになるのですね。

【復刻版】谷崎潤一郎全集第5巻ー「神童/病辱の嘆き/魔術師/玄奘三蔵/詩人のわかれ」」 (響林社文庫)