最近のテレビの広告(BSで夕方にやっている古い再放送にはいるようなもの)
では、さかんに年寄りも若くみられることを持ち上げるようなものがありまして、
そんなに無理することもなかろうにと思うことです。
年相応ではなく、年より若くみえることは、そんなにいいのかと、若い頃から
年寄りもずっと老けてみられた当方は思うのでありました。二十代の頃に四十代
にみられたのですが、年齢を重ねてきますと、徐々に実年齢に外見が近くなって
きたようであります。最近になって見た目がかわらないねといわれるのは、その
昔からじじむさかったせいでしょう。
本日に谷崎潤一郎の「初昔」(新書版谷崎潤一郎全集23巻)を読んでいまし
たら、次のようなくだりがあって、苦笑いしながら読んでいました。
「いったい五十歳を老年と云ったのは昔のことで、當世はそのくらゐの年格好が
正しく働き盛り、分別盛りであると云ふ人もあらう。・・今の人が昔の人よりも若い
と云ふのは、主として外貌が若く見えると云ふことではないのか。早い話が私な
どは、上顎にも下顎にも自分の歯は云ふものは何枚も残ってゐず、大部分は義
歯なのであるが、昔であったら安全剃刀などと云ふものもないのであるから、
定めし不性髯をぼうぼうと生やした、歯の脱けた、うす汚いよぼよぼの爺さん
だったであろう。
つまり、さう云ふ老人の風體こそ偽りのない自分の姿なのであって、颯爽た
る紳士の装ひをしてゐるからと云って壮者に負けない體力があるやうに己惚れ
たら、飛んだ間違ひかも知れない。」
1942(昭和17)年に書かれたものですから、この時の谷崎は56歳でしょうか。
その昔は、年齢よりも多くみられるのを美徳としたところもあるのでしょう。
森繁などの映像をみていましたら、年齢であることを強調して、自分より若い
女性の同情をかうなんてシーンがありますが、なんとなく谷崎にも通じるような
気分を感じます。