負けるが勝ちかな

 ずっと雨が降り続いて、気温も上がらないことから、本日も終日自宅にひきこもり
の生活となりました。なかなか本を読むこともできずで、トイレで読むためにとって
あった里見とん随筆集を手にしておりました。

里見トン随筆集 (岩波文庫)

里見トン随筆集 (岩波文庫)

 この随筆集には、1970年に発表された「戦争とわたし」という文章があります。
 里見とんさんは1888(明治21)年に生まれて、1983(昭和53)年に亡くなったので
すが、その前半生は日清戦争からはじまって、太平洋戦争に敗れるまで、10年ごとに
やってきた三度の戦争ということで、上流階級のおちこぼれであった里見とんさんに
は、生きづらい時代でありました。
 先の大戦に負けて、それから20年ほど経過した時に発表されたのがこの「戦争と
わたし」となります。
 本日は、この中から話題をいただきです。
「この頃の若い人たちは、やたら戦争反対だとか、徴兵なんて飛んでもねえ話だとか。
それは重々ごもっともなことで、こっちだって子供の時分からそういう考えで、嫌っ
て嫌って嫌いぬいてきたんだけど、実際には十年ごとにやって来た三度の戦争を、そ
れぞれの時点において体験しているんだ。今後は一切、戦争には関係しない、という
憲法も出来たことだし、そうあってほしいよ。だけど、世界中にたくさんの国家とい
うものがある以上、国と国との間、民族の間で、絶対に戦争しない、喧嘩しないで
済むだろうか? それは願うべきことには違いないけど、ちょっと無理なんじゃない
かと思うな。・・・・
 それだから、ただ戦争反対だ、徴兵はいやだ、いやだって、駄々をこねるみたいな
ことを言ってたって、なんの役にも立ちゃアしない。誰だって争い事はいやだし、
みんな命は大切なんだ。戦争なんていやにきまってるんだ。真実そう思うんなら、ここ
で若い人は勿論、政治家でも誰でも、なんとか違った観点から、じっくり考え直さなく
ちゃいけない、というに僕は思っているんだが。
 それじゃ、お前の考えはどうだって訊かれたって、僕はそういうことは至極不得手
な人間で、いくら考えたって纏りっこない。」
 1970年において「この頃の若い人たち」というのは、当方の世代でありますね。
そして、それから50年近くもたって、いまだに当方は駄々っ子のようであります。