十年もたったか

 先日に八木義徳さんの自選随筆集を購入したのは、その最後におかれている「冬の
夕陽」という文章を目にしたからであります。
 この文章は、八木さんの学生時代の文学仲間であった長見義三さんの作品集が刊行
されたことをきっかけにしておりました。発表は「新潮」1994(平成6)年1月号と
あります。この文章から、すこし引用です。
「私がこの小文を書こうと思ったのは、旧友である長見の実に五十年ぶりの作品集が
できるだけ多くの現代の読者の眼にふれてもらいたいという願いはむろんながら、長見
自身の吐露した『いまごろになって、こんなことが起こるなんて、不思議な』という
その不思議な出来事の起こったいきさつもおもしろいと思ったからである。」
 ということで、このあとにいきさつが書かれています。
 はしょって紹介すれば大学で金田一京助言語学の講義を受け、それでアイヌ文化に
関心を持っていた恒文社会長(池田郁雄さん)が古書店で「アイヌの学校」を入手し、
それを読んで感動したことから、これを自社から刊行しようと思っていたら、自分の
関係する会社に作者の息子さんがいることがわかり、その方を通じて、作品刊行の交
渉を行って、刊行にこぎつけたという話です。
 こうして刊行された長見義三作品集「アイヌの学校」は、関係者の思いは通じずに
アイヌ民族への差別を助長する出版物との批判を浴び、回収、絶版となりました。
図書館などでも貸し出しされないことから、読むことがとても難しい本ということに
なっています。
 今回、やっぱりこの作品は読んでおかなくてはいけないという気持ちになって、
ネット古書店で「アイヌの学校」を購入することとなりました。
なんといっても、この小説の舞台となったのは、当方が一時期住んでいたところで
ありまして、この作品に描かれている人たちは、当方のご近所にお住まいであった
人々の若き日でありました。
 それにしても、以前から何度も読んでみなくてはと思っていて、このブログにも
過去にそのように記しておりましたが、それからでもすでに十年が経過しています。
( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20070316 )