買うは易く

 その昔とくらべますと、本を購入するということは、本当に簡単になりました。
 その昔というと、これは当方が高校生でありました60年代が一番大変であったかも
しれません。当時、高校生で本をたくさん持っているなんて人は、自分の周りにはいな
かったからな。
 それでいきますと、今はほんとうに隔世の感ありです。本を買おうと思いましたら、
新刊でなければ、随分と安価に確保することができるようになっていることです。
ブックオフで100円の文庫とか新書でありましたら、30冊でも3千円でありますから、
蔵書を増やすには良い時代になりました。
 しかし、このように安価で確保できるようになったということは、それだけ本を求め
る人が少なくなっているということで、これはやはり喜んでばかりはいられませんです
ね。
 「買うは易く」と記して、これのあとには「読むは難し」と書こうと思っておりまし
たが、これは買うと、そのまま積まれたままになっている、当方の現状の言い訳であり
ますね。
 買うのが大変という本もありまして、近刊予定のリストを見ておりましたら、その
ようなものが見つかりました。

 来月の講談社文芸文庫阪田寛夫さんの「庄野潤三ノート」が入るとのことです。
庄野潤三ノート」は、阪田さんが講談社からでた庄野潤三さんの全集の各巻末に寄せ
た解説をまとめたものとなります。
この「庄野潤三ノート」の元版が冬樹社からでたのは1975年で、ちょうどこの年に阪田
さんは「土の器」で芥川賞を受けるのですが、庄野潤三全集に解説を書いていたのは、
その数年前のことで、この解説を書いていた頃は、阪田さんが作家として一番大変な時
期でありまして、この仕事は色々な意味で庄野潤三さんと阪田寛夫さんの友情のあかし
であります。
 阪田さんといえば、新潮社「波」4月号には、「文士の子ども被害者の会」ということ
で、阿川弘之さん、矢代静一さんの娘さんとともに、阪田さんの娘さんも座談会に参加
しています。
 茨木の「富士正晴記念館」の展示は、富士正晴さんと阪田寛夫さんの交流についての
ものとありまして、いろいろと気になることであります。