今年の芸術選奨は

 本日の新聞に第68回「芸術選奨」の発表がありました。当方の目を惹いたのは文学
部門のお二人であります。

カストロの尻

カストロの尻

光の犬

光の犬

 昨年に発表された作品からの選出となりますが、大ベテランの金井さんと、年齢だ
けはベテランといってもよい松家さんが受賞しました。お二人とも、当方がひいきと
する作家さんでありますので、これは喜ばしいことですね。
 受賞の理由は文化庁のページにありましたので、それからお二人に関するところを
引用です。
 まずは金井美恵子さんについて。
「 1960年代末に詩と小説の二つの分野に,ほぼ同時に鮮やかにデビューした金井美
恵子氏は,その後の半世紀にわたって『書くことと読むことの謎に果敢に戯れる」と
いう一貫した姿勢を保ちつづけてきた。「カストロの尻」は小説でありながら,詩や
コラージュや批評や映画との臨界を意識的に作り出しつつ,それらを作品言語へと
導き入れる。こうして,自身のこれまでの,優美にして挑発的な文学営為全体の一つ
の頂となりえている。」
 そして松家仁之さんについてです。
「『光の犬』は,その静謐(せいひつ)さ,その透明さにおいて,際立った達成を示し
ており,日本近代文学に類例がないとさえ思われる。作者と同世代と言っていい姉弟
の視点がほぼ中心をなすが,視点を固定することなく,三世代の生き方が克明に描か
れている。とりわけ生死の描き方の鮮やかさには目を見張るものがあるが,しかし
作品全体に漲(みなぎ)っている静謐(せいひつ)さ,透明さを崩すものではない。
現代人の魂の行方を探究して見事というほかない。」
 この受賞で驚いたのは、金井美恵子さんがあがってきたことですね。これまでほん
とうに大きな賞に縁がなくて、これは金井さんが賞なんかいただかなくてけっこうと
思っていることのためかと思っておりました。
 もちろん金井さんのファンは、金井さんよりもはるかに見劣りする作家さんが、政
治力で文学賞などを受けていることを不快に思っていたのですね。いつかは、金井さ
んにもなにかと思うのですが、これまでの受賞は、泉鏡花賞と女流文学賞くらいのも
ので、ちょっと淋しいなと感じていたはずです。
 まあ、それがお国からの「芸術選奨」というのは、ちょっと複雑なものがあります
が、海外の賞は受けるが、日本国からの賞は受けないというほど金井さんは、子ども
ぽくはないのでありますよ。
 ということで、本日も金井美恵子さんの作品を手にすることとなりました。