「感動した」とかっこつきで書きますと、その言葉が発せられた場面のことを思い
浮かべる人がいますでしょう。「感動した」がる人がいるのですよね。小説などを
読んでもそうでありますが、感動するのが目的で本を読んだりする年頃ってあるよう
に思います。
今から30年くらいも前に、たしか「話の特集」で金井姉妹がどなたかを招いて鼎談
するページがあって、その時に金井美恵子さんが「若い頃はあたまにがつんとくる
小説をありがたがるが、年とともに、じわっと効いてくる小説がよくなる」というよ
うなことをいっていて(まったく、記憶だけで記しておりまして、はなはだ不正確で
あります。「話の特集」と金井美恵子さんというところだけはあたっていると思う
のですが。)、それを眼にした頃の当方は、頭にがつんとくる小説と縁遠くなって
いましたので、これからはじわっと効いてくる小説などを読んでいくことになるのだ
なと思ったことです。
ということで、本日に「光の犬」の再読を終えました。一度目は小説の筋を追って
ページをめくり、二回目はすこし細部を確認しながらの読書でありました。その読後
感は、この作品は「じわっと効いてくるもの」ということになります。
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ら、それだけで当方の評価は甘くなってしまうのです。それでも「感動した」では
なく、「身につまされる」でありまして、この作品の結果を当方も受け入れなくては
いけないという読後感です。
書き出しの一行目には「添島始は消失点を背負っていた。」とあるのですが、多か
れ少なかれ人は亡くなるわけですから、この添島始さんの消失点とは意味が違うかも
しれませんが、人は消失点と無縁ではありません。
それでも、どう希望をもって、「消失点を背負いながら」生きていくのかでありま
すね。
作中のとても印象に残るシーンに、少年が地吹雪のなかを駅に向かって歩いていく
ところがありますが、結果からみると無謀な試みであるものの、その時の少年は光に
むかって希望を抱いて前進していたとしか思えないことです。
あと印象に残るのは、作中に登場する人物の、それぞれの職業とかキャラクターが
絶妙(主人公となる姉、弟のところがちょっと知的な職業でありすぎるようにも思う
のですが)なところでありまして、この作品の書き出しの「消失点」と、添島始(作
中では弟になる)の祖母の職業が、見事な対比を見せています。
たぶん、いろんな読み方ができる作品で、読んで感動したり、涙したり(これはす
るかもしれない)、大笑いしたりというタイプの作品ではありませんが、それこそ
30代後半の人に読んでもらいたいものです。