スタア誕生など

 金井美恵子さんの「スタア誕生」をすこしずつ読んでおります。一気に読み上げる
というようなタイプの小説ではないので、すこしずつ読むのがいいのでありましょう。
 断片化されたエピソードが、あちこちにちりばめられていて、それは記憶に残るの
ですが、そのエピソードが、すぐに次につながるわけではないので、筋を追って読む
というタイプの小説ではないですね。それでいて、たぶん最後までいきましたら、
言葉によって一つの金井ワールドができているのでしょうが。
 この噛み切れなさは、ほとんどホルモン焼きの食感でありますね。金井美恵子さん
の小説はホルモン焼きの世界からは遠いのだけど、あの1ページに句点が一つくらい
しかない文体というのをたとえれば、なんというのがいいのでしょうね。
 それにしても、最初のページで、最初に句点が打たれているのは、「と金魚の娘は
言うのだ。」というところでありますからね。唐突にでてくる「金魚の娘」という言
葉に、ええっ「金魚の娘」ってなんだと思うことです。
 とにかくほんと頭のなかにすーっと入っていかない小説でありまして、こういう頭
に入らない小説を書くのって大変だろうし、読ませるのってもっと大変だよなと思う
のですが、それでいて、けっこう面白く読んでしまうのですよ。
 これが金井マジックで、すごいことです。まだしばらくは楽しむことができそうで
す。

『スタア誕生』

『スタア誕生』