本日もこれまでの時間は池内紀さんの「記憶の海辺」を読んでおりました。
そのわりに読めていないのは、日中に散歩にでたり、久しぶりの雪のために雪かきを
していたせいでありましょうか。
本日に目にしたところで、えんぴつで横線でも引きましょうかと思ったのは、次の
ところです。(もちろん図書館から借りた本に、線を引くわけにはいきません。)
「新刊書の棚から持ち帰った一つに、『忘れられた文士たち』というのがあった。
大半がウィーン生まれで、繊細な抒情詩人、将来を嘱目された劇作家、歴史小説家、
あるいはペンの立つ新聞文芸欄の書き手だった。才、学ともにあり、世にときめいて
当然の人物だったのに、早々と忘れられた。まるで一度も存在しなかったように、痕
跡すらないのである。
いかにも人間は忘れっぽい。昨日までもてはやしていても、時代の風向きが変わる
と、あっさりと捨てる。なんとも世間は忘恩だ。しかし、その本の人物の場合、忘れ
られた側にも、それなりの理由があった。どちらかというと、当人自身が忘れられる
べくつとめたふしがありげなのだ。」
いかにも池内さん好みのエピソードでありますね。最近は特に売れてなんぼであり
ますので、「忘れられるべくつとめる」なんて人は、ほとんど相手にされないので
ありましょう。
しかし、売れようとつとめ一世を風靡した人が、その後すっかり忘れられて、忘れ
られるべくつとめた方が、ずっと後世になっても静かに思い出されたりするのであり
ますね。
どちらが好きかといわれたら、それはもう断然に後者でありますよ。そういえば、
池内さんには「二列目の人生 隠れた異才たち」という本がありました。(集英社文
庫にもはいっていたのですが。)
- 作者: 池内紀
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