文庫本一冊探すなら

 あいかわらずで笙野頼子さんの「会いに行って 静流藤娘紀行」を読んで

います。笙野さんが師匠とあおぐ藤枝静男さんへの思いを書いた一冊です。

会いに行って 静流藤娘紀行

会いに行って 静流藤娘紀行

 

 まるで一筋縄で行かない笙野さんのことでありますから、この作品を読むに

あたっても、あちこちに散りばめてあるエピソードに足を取られてしまったり

で、なかなか前に進んでいきません。

 そういえば師匠 藤枝さんの文庫本もどこかにあったはずと思って文庫が

置かれているところをちょちょっと探してみたのですが、これは見つからずで

あります。どうしてあの文庫本を買ったのか、今となってはまったくわからな

いのですが、すこしは読んでいるのかな。何日もかけて一冊の文庫本を探しだ

すのでありましたら、ネットで確保したほうが早くて、安いか。となると、

何のために本を溜め込んでいるのかです。

空気頭・欣求浄土 (講談社文庫)

空気頭・欣求浄土 (講談社文庫)

 

  それはそれとして、本日に「会いに行って」を見ていて、目が止まった

ところです。

「というのも引用名人である彼のこの文は、引用され、引用されて世紀を超え

ている。私が見ただけでも、例えば久保田正文が著作集月報で引用し、朝吹

真理子氏が文芸文庫『志賀直哉天皇中野重治』の解説において引用して

いる。とどめ金井美恵子さんが『カストロの尻』収録の『小さな女の子の

いっぱいになった膀胱について』において、やはり『志賀直哉天皇・中野重

治』とともに・・」

 笙野さんが人名を記するときに、久保田さんは呼び捨てで、朝吹さんには氏

をつけて、金井美恵子さんには、さんであります。この使い分けがわかるよう

でわからないことです。

 笙野さんのなかでは、故人は基本呼び捨て、現役さんは尊敬する人はさんで、

その他は氏なのかなと思ったりです。そう思っていたら、あとのほうでは故人

にも「さん」とつけていますので、単純ではないようです。

 上に引用したところを見ましたら、金井美恵子さんの本を探しにいくことに

なりです。「カストロの尻」は比較的新しい本でありますので、すぐに見つかる

ことです。あわせて、金井さんが笙野作品について書いている文章を収録した

ものも見つけました。 

カストロの尻

カストロの尻

 

  

 「カストロの尻」に収録されている文章には、藤枝さんにからめて笙野さん

の名前もでてきて、笙野さんと金井さんが照応しているのを感じることです。

「二年程前、笙野頼子の『幽界森娘異聞』(講談社文芸文庫)の解説を書いた

時、それ以前に『志賀直哉天皇中野重治』を読んでいたら、むろん、この

エピソードを引用したはずである。」

 このエピソードとは白樺派創刊同人である園池公致の「特権意識とはどういう

ことなのかを示す」ものであるのだそうです。エピソードはもちろん藤枝さんの

文中にあるものとなります。

志賀直哉・天皇・中野重治 (講談社文芸文庫)