ちょうど読んでいたら

 このところふとんにはいってからは新書版「谷崎潤一郎全集」第23巻を手にし

ています。そのなかに「初昔」という作品があって、これを読んでいましたら、

谷崎の娘 鮎子さんの婚約についての話がでてきました。

「鮎子をゆくゆく佐藤春夫の甥に當る龍児にめあはしたらと云ふ話が始めてあった

のは、その頃のことだったと思ふ。當時は正式に申し込まれた譯ではなくて誰かを

介してふっと私の耳に這入って来たのであったが、私にはそれが、まだその時分は

七十歳の高齢で紀南の下里に隠棲してゐた故懸泉堂老人、 春夫の父に當る人

の、佐藤家と谷崎家との行き係りを考へ、淋しい育ち方をした龍児と鮎子の相似た

身の上を考へ、双方の親たちの幸福までを考慮にいれた思ひやりのある計らひで

あることがほぼ察しがついた。」

 谷崎は妻である千代との間に娘 鮎子さんを設けるのですが、生まれてまもなく

別居状態となり、その後において谷崎、佐藤春夫との間で千代夫人の譲渡という話

に進展するわけです。

 谷崎と正式に別れてからは、千代夫人は娘とともに佐藤春夫と暮らすようになり

ます。こうして「二人とも数年前から小石川の春夫の家に置いて貰って通学しつつ

あることだし、してみれば互に気心も分かってゐる筈だし」ということになりです。

 その龍児さんは、佐藤春夫の姉の子で、龍児さんの姉は三好達治の妻君であっ

たという関係になります。なかなか大変そうな家族関係でありますね。

 そんなことを思っていましたら、本日に立ち寄った図書館で、谷崎潤一郎書簡集

を目にすることができました。これはタイミングがよろし、早速に借りることになり

です。

  谷崎の書簡集は、これまでにもでているのですが、この一冊はほとんど離れて

暮らした娘への書簡でありますからして、マゾヒスト谷崎は姿を見せることがない

でしょう。