気温上がらず

 しばらく良いお天気が続いていたのですが、本日は終日曇り空で、気温もあがらず
でありました。この時間はひざかけをして暖をとり、なんとかストーブをつけずに
過ごしています。
 TVなどで、ほかの街のお天気などを見ていましたら、本日は真夏日なんていってい
て、これはどこの話かと思いましたです。
 本日は留守番をしながら、水回りの配管修理の立ち会いをして、その間文庫本で小
説を読んでおりました。もうだいぶん前から読んでいるものですが、「安城家の兄弟」
なんとか中巻を読み終えることができました。残りは下巻200ページほどとなりです。

安城家の兄弟 (下) (岩波文庫)

安城家の兄弟 (下) (岩波文庫)

 本日に読んでいたところには、次のくだりがありです。
「その時、いきなりガラッと、中の口からはいって来たのは、近衛の軍帽にカーキー
色の外套で、腕に、何か書いた布を巻いた在郷軍人と、もう独りも、甲斐甲斐しく
出立つた、どう見ても自警団の主要人物、といった風体な若者だった。・・
『ええ、ちょっとお邪魔します。ええ、実はその、例の甘粕大尉の減刑ですが」
と、在郷軍人は、もう何軒も廻って来て、すっかり手に入り切った柔調子で、やれ、
邦家のために一身に犠牲にした勇士だの、天に代わって斬姦だとのと、そんなもの
ものしい効能書は一切ぬきにして、すぐさま衣嚢から、罫紙のとぢたやつを取り出す
と、『ご面倒でも、どうかこれへ一つ、御署名願ひたいんで・・』
 その要領のよさに、ついふらふらッと立ちあがって了ったが、ぢかに畳の上に置かれ
た署名帳を前にして、ふと昌造は、言ひまくられて、ぐッと詰まった時のやうな、不快
な困惑に陥ってゐた。・・・・・
 賛成不賛成などてんきり問題にもしずに、いきなり『御署名を』といふ、否応なしの
申出だった。勿論、この在郷軍人にしてみれば、そこになんの異議違背があらうとも
思はれなかったらうし、実際また、今まで廻ってきた軒並、ただの一人でも愚図愚図言
ふ物はなかったらうけれど、そのぐうもすうもないことと、相手の応諾を信じ切ってゐ
る態度が、昌造にとっては、誠に『困りもの』『泣きどころ』だった。」
 時は関東大震災直後のことであります。主人公は震災にあった逗子の家から番町の住
宅に仮住まいをしたところに、署名のために来客があったときのくだりです。
大震災で甘粕大尉といえば、大杉栄殺害であります。在郷軍人たちは甘粕は反逆者大杉
を始末したのだから、減刑されるべきと疑ってなく、逗子で大杉栄と近所付き合いが
あった主人公は、大杉という人間に親しみを感じているので、すんなりと署名する気分
にならないということの葛藤がおこるのであります。
 今のこの国では、在郷軍人会とか隣組が「憲法改正を早めて、自衛隊を合法化しよう」
という趣旨の署名を集めたりはしていないのですが、ここ数年の世の中の動きをみてい
ましたら、そんな日が来るのも遠くはなさそうなことで、それだけはだめでありますね。