しばらく良いお天気が続いていたのですが、本日は終日曇り空で、気温もあがらず
でありました。この時間はひざかけをして暖をとり、なんとかストーブをつけずに
過ごしています。
TVなどで、ほかの街のお天気などを見ていましたら、本日は真夏日なんていってい
て、これはどこの話かと思いましたです。
本日は留守番をしながら、水回りの配管修理の立ち会いをして、その間文庫本で小
説を読んでおりました。もうだいぶん前から読んでいるものですが、「安城家の兄弟」
なんとか中巻を読み終えることができました。残りは下巻200ページほどとなりです。
- 作者: 里見トン
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1953/05/25
- メディア: 文庫
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「その時、いきなりガラッと、中の口からはいって来たのは、近衛の軍帽にカーキー
色の外套で、腕に、何か書いた布を巻いた在郷軍人と、もう独りも、甲斐甲斐しく
出立つた、どう見ても自警団の主要人物、といった風体な若者だった。・・
『ええ、ちょっとお邪魔します。ええ、実はその、例の甘粕大尉の減刑ですが」
と、在郷軍人は、もう何軒も廻って来て、すっかり手に入り切った柔調子で、やれ、
邦家のために一身に犠牲にした勇士だの、天に代わって斬姦だとのと、そんなもの
ものしい効能書は一切ぬきにして、すぐさま衣嚢から、罫紙のとぢたやつを取り出す
と、『ご面倒でも、どうかこれへ一つ、御署名願ひたいんで・・』
その要領のよさに、ついふらふらッと立ちあがって了ったが、ぢかに畳の上に置かれ
た署名帳を前にして、ふと昌造は、言ひまくられて、ぐッと詰まった時のやうな、不快
な困惑に陥ってゐた。・・・・・
賛成不賛成などてんきり問題にもしずに、いきなり『御署名を』といふ、否応なしの
申出だった。勿論、この在郷軍人にしてみれば、そこになんの異議違背があらうとも
思はれなかったらうし、実際また、今まで廻ってきた軒並、ただの一人でも愚図愚図言
ふ物はなかったらうけれど、そのぐうもすうもないことと、相手の応諾を信じ切ってゐ
る態度が、昌造にとっては、誠に『困りもの』『泣きどころ』だった。」
時は関東大震災直後のことであります。主人公は震災にあった逗子の家から番町の住
宅に仮住まいをしたところに、署名のために来客があったときのくだりです。
大震災で甘粕大尉といえば、大杉栄殺害であります。在郷軍人たちは甘粕は反逆者大杉
を始末したのだから、減刑されるべきと疑ってなく、逗子で大杉栄と近所付き合いが
あった主人公は、大杉という人間に親しみを感じているので、すんなりと署名する気分
にならないということの葛藤がおこるのであります。
今のこの国では、在郷軍人会とか隣組が「憲法改正を早めて、自衛隊を合法化しよう」
という趣旨の署名を集めたりはしていないのですが、ここ数年の世の中の動きをみてい
ましたら、そんな日が来るのも遠くはなさそうなことで、それだけはだめでありますね。