月がかわって 2

 出版社から届いたPR誌10月号で、眼についた記事オリンピックに続いては、天皇
生前退位についてのことですが、これも高村さんのコラムにありました。
 高村さんの文章では、次のようにあります。
「(オリンピック期間に)大きく扱われた唯一の例外は、生前退位の意向を強くにじ
ませた天皇のお気持ちの表明だったが、皇位継承問題だけでなく、象徴天皇のあり方
にまで影響が及びかねない大問題にもかかわらず、これも結局オリンピックの喧噪に
押し流されてしまい、国民が深刻に受け止めた様子はない。」
 天皇のお気持ちの表明というのは、現行の憲法のもとでは、天皇にできるぎりぎり
のところなのでしょう。戦前であれば現人神とまつられて、特別な存在でありました
が、少なくとも敗戦後に天皇についた今上にとっては、自分なりの天皇の在り方とい
うのがあるのでしょうが、そのことを公式に発言することができないジレンマであり
ますね。
 これをもっともっとうがった見方の文章を発表しているのが、「一冊の本」におけ
る作家 田中慎弥さんであります。田中さんの小説作品はいまだに読んだことはない
のですが、芥川受賞のときのインタビューで不遜な発言をしたことが強く記憶に残っ
ています。
 田中さんには、『宰相A』(2015年、新潮社)なる作品があって、田中さんと同じ
山口県に縁のある宰相が取り上げられているとか聞いていますが、この作品が気に
なっておりました。

宰相A

宰相A

 「一冊の本」の田中さんの文章から引用です。
「乱暴に憶測するなら、今回の退位の意向はまるで大日本憲法下の日本を理想とする
かの如き臣下、安倍晋三首相に対し、私が天皇を退くのだから貴様も首相を辞めよ、
平和憲法を見くびるな、と強く迫っているとも考えられるのだ。勿論、天皇が退くか
らといって首相が辞める理由にはならない。・・・安倍首相は、今のところ進退など
全く考えていないだろう。自民党総裁の任期延長論も出ている。だからこそ、『お気
持」表明がこの時期になったのは、単なる偶然とは思えない。」
 これは冒頭のところにおかれた一部ですが、このあと天皇という王権に対する長州
の首相という話題に転じていくのですが、この田中さんの「乱暴な憶測」は、戦中派
の人には違和感なく受け入れられるもののようです。
 この天皇のお気持ちを首相サイドはどのように受け止めたかといえば、宮内庁の人
事で返したのでありますね。それがいかにも報復に見えるものであったというのが
田中さんの乱暴な憶測があたっているのではと思わせます。