山辺健太郎さんについての本を見ていましたら、そこで紹介されていた干刈あがた
さんの小説「月曜日の兄弟たち」に手が伸びました。まさかこのような形で、話が
つながっていくとは思ってもみませんでした。
当方が手にしたのは、福武文庫版「ゆっくり東京女子マラソン」でありまして、
この文庫本に収録されています。
干刈あがたさんといえば、離婚した母子の日ごろの生活とその別れた夫との関係と
いうのが、初期作品の柱の一つでありましたが、「月曜日の兄弟たち」は主人公とな
る女性は、まだ独身の学生という設定です。作品は発表された1982年から二十年前へ
遡って回想されます。
1962年12月24日が起点となりますが、これは翌日から「のぞみが丘団地」への入居
がはじまる前日で、主人公の兄がこの団地のなかで寿司店を開業するので、そのため
に一日早く開業準備のために団地に移ってきたというところから話は始まります。
ということで、この作品を読みすすめますと、これはある意味での団地小説となり
ます。それもいまだに団地は造成中であって、主人公の兄の寿司店には、工事関係の
作業員や引っ越ししてきたばかりの新住民などが客として訪れてきます。
「クリスマスの12月25日カラのぞみが丘団地の第一次入居が始まるので、正月を新居
で迎えようとする家族が大挙して引越して来るはずだった。・・・
とろとろ眠りかけた時、私は物音に目が醒めた。異様な感じに私は起き上り、ベランダ
に出て物音のする方を見た。まだ暗い中央道路に大型トラックのヘッドライトが並び、
それぞれの棟へ行く道へ曲ろうとするトラックや、車間距離が近すぎてバックできない
トラックが、クラクションを鳴らしたり怒鳴ったりしているのだった。・・・
その日から暮の31日まで一週間、連日丘へ上ってくるトラックの列は続き、商店街は
ごった返し、団地内を車や自転車や人々が右往左往した。」
住宅公団の団地への引っ越しの様子です。小説では3200戸が一週間で引っ越してくる
とありました。いまから50年ほど前になりますが、この団地が山辺さんがお住まいで
あったところとしますと、これは東久留米市上の原団地がスタートするときの様子を
描いているものとなります。
西武線沿線の団地については、原武史さんの著作で親しいものとなっていますが、
1968年12月といえば、原さんは生まれたばかりの時でありました。原さんの団地と山辺
さんの団地は、すぐ近くにあるようです。