「小尾俊人の戦後」といいながら、長谷川四郎さんのことばっかし話題であります。
四郎さんの初期作品集には、みすず書房から刊行となったものが多くありまして、
これはどうしてかなと思っていましたが、昨日まで見ていた小尾さんの1951年日記
における交流をみましたら、これはなんの不思議もないと思いました。
長谷川四郎全集第十六巻にある著作目録から、みすず書房からでたものを抜き書き
してみます。
パスキエ家の記録 全十冊 訳 1950年9月〜52年9月
ソヴィエト文学入門 訳 1952年9月
グラン・モーヌ 訳 1952年10月
師に寄せる手紙 訳 1953年11月 ( 佐々木斐夫と共訳 )
鶴 1953年8月
無名氏の手記 1954年5月
赤い岩 1954年9月
尋問 訳 1958年5月
随筆丹下左膳 1959年2月
ロルカ詩集 訳 1967年6月
中国服のブレヒト 1973年2月
ブレヒト詩集 訳 1978年8月
最初の作品集である「シベリア物語」は筑摩書房ですが、それからあとの50年代は
コンスタントにみすず書房からでているのがわかります。これらみすず書房から刊行
となったもののあとがきをみてみました。ほぼ上記の本は架蔵しているのですが、
もっていないものについては、四郎全集で確認です。
何を見たかといいますと、昨日に引用した「パスキエ家の記録」最終刊にあったの
と同じく小尾俊人さんへのメッセージの有無です。残念ながら、どれにも小尾さんや
編集者への謝辞はありませんでした。
そもそも、昨日の「パスキエ家の記録」で見られたような四郎さんの後書きという
のが極めて異例であると思われます。なんといっても、このパスキエ家が、四郎さん
にとってはデビューの仕事のようなものでありまして、それだけに思い入れも強かっ
たのでありましょう。
この四郎さんに対する小尾俊人さんの人物評が日記の中にありました。
これは1951年12月31日にあるものです。
「 長谷川四郎 純潔にして剛毅な心。魂の詩人。現代得難き人である。
異常な感覚がある。併し現代人とは合わぬかもしれない。」
10年にわたって、たいへん密な交流があった小尾さんによる四郎評です。
この評は、ちくま日本文学全集「長谷川四郎集」解説 鶴見俊輔さんにつながりま
す。鶴見さんは、「デルスウは長谷川四郎の仕事全体の底にうまっている人物であ
るように私は感じる」と書いています。
小尾さんが「パスキエ家の記録」に長谷川四郎さんを起用する時、四郎さんが訳し
た「デルスー・ウザーラ」を読んでいたのかどうかわかりませんが、「現代人に合わ
ぬ、異常な感覚」というところに「デルスー」に重なるものを感じることです。