「本の雑誌」 12月号 3

 「本の雑誌」12月号を見ていましたら、思いがけずに長谷川四郎・元吉親子の名前
を二箇所で発見であります。定期刊行物で、長谷川四郎・元吉さんの名前を二箇所で
見かけることなんてほとんどないので、これは編集発行人のおかげでありましょうか。
 一箇所目は、校條剛さんの「流行作家の死」という文章のなかでありました。
ここで中心に取り上げられている流行作家は、本名 長谷川海太郎さんであります。
 校條さんは、次のように書いています。
「ある時代、大人であれば誰もが知っていたであろう流行作家の名前が現在どれだけ
記憶されているだろうか。流行作家はその名前の通りに、ひと時の流行の産物にすぎ
ないのである。」
 長谷川海太郎さんは、もちろん函館が生んだ長谷川兄弟の長兄であります。一人で
三つのペンネームを使い分けて作品を残したのですが、無理がたたって三十五歳で
突然死されました。作品は「一人三人全集」に集録されていますが、この三つのペン
ネームは、いまどのくらい知られていますでしょう。一つのペンネームで書かれた
「踊る地平線」は、現在、岩波文庫に入っています。
 このところで、校條さんが四郎・元吉に言及しているのは、次のくだりです。
「今から十年くらい前のことになるだろうか。私は、海太郎の末弟の四郎の息子で、
甥にあたる長谷川元吉さんと鎌倉文学館で保管されている海太郎さんの死体検案書と
デスマスクを見に行った。」
 四郎・元吉とでてくるのは、これだけであります。鎌倉文学館で海太郎さんの死体
検案書を見るためには、親族の同行が必要だったのでしょうか。たしか海太郎さんに
は、子どもさんがいなかったはずであります。
 そして、もう一箇所のほうです。「三角窓口」の「本棚が見たいで発見」というと
ころにありました。江別市の大山さんという女性の投稿です。
目黒考二さんの本棚に『わわ!』と思う一冊を発見。速攻で手に入れ読んだのが
『父・長谷川四郎の謎』という本です。そしたら、止まらない止まらない、自分の
持っている長谷川四郎本のページをめくる手が止まらない止まらないいいんだ止まら
なくていいんだこのまま止まらず読む読む読め読めだってやっぱりすごいよ四郎さん
『父の謎』を書いた息子の元吉さんが装丁した本も(『長谷川四郎の自由時間』土曜
美術社)も私持っているじゃん!」
 久しぶりで長谷川四郎さんファンの人の文章を拝見して、うれしくなったのですが、
この時に手にしていた本がなんであったのか気になることです。
 長谷川元吉さんが装丁したといえば、晶文社からでた四巻本「作品集」がそうで
ありました。プロのデザイナー(この場合は平野甲賀さん)は、この作品集の装丁に
残念なものを感じていて、それが四郎全集デザインの推進力となっています。
 「父・長谷川四郎の謎」も平野甲賀さんによるデザインでありました。
 大山さんの投稿は、前に続いて「息子さんの元吉さん、お父さんの介護おつかれ様
でございました」とあるのですが、あの頃は四郎夫人がいらっしゃいましたので、
むしろ「お母さんの介護おつかれ様で」というところでしょうか。
 どちらにしても「古いことだ古いことだ」であります。

父・長谷川四郎の謎

父・長谷川四郎の謎