堀江さんとギベール 9 

 堀江さんの「仰向けの言葉」に収録の「スターキングはもう作られていませんと彼
は言った」という文章に触発されて、エルヴェ・ギベールの小説を読むことになった
わけですが、この小説では、画家 ボリス・ザボロフに注目です。
 「スターキングはもう作られていませんと彼は言った」という文章で、彼と堀江さ
んをつなぐのは、りんごとボリス・ザボロフでありました。
 彼とは、宇佐見英治さんの「明るさの神秘」を刊行した、今は亡き小平林檎園主の
こととなります。

 現在はみすず書房からでている「明るさの神秘」の元版となるのが、上に掲げてい
る写真の左にあるものです。当方はずっと後になってから古書で求めたのですが、
堀江さんは、この本がでていることを新聞掲載の宇佐見英治さんの文章で知って、林
檎園に注文し、入手したとありました。この本の入手した時に添えられていた添え書
きに堀江さんがあまり一般にはでまわらない案内紙に掲載した文章に反応したところ
があったのだそうですが、そこに「スターキングはもう作られていません」とあった
とあり、これが文章のタイトルになっています。
 この案内紙についての、堀江さんの文章からです。
「ひと月ほど前、私ははじめての自著を出してくれた出版社の新刊案内紙に、その宣
伝と自己紹介を兼ねて、『キウイあり益、二百メートル』と題する小文を寄稿してい
た(『回送電車』所収)。なんと林檎園の主人は、直接購読しないかぎり手に入らな
いその案内紙に目を通しておられ、簡単な感想とともに、表題にからめて記した一節
ー『富士やスターキングみたいに図体のでかいだけの品種より適度な酸味のある紅玉
を愛する』ーに鋭く反応し、まるみをおびた独特の書き文字で、『スターキングは
もう作られていません』とご教示くださったのである。」
 堀江さんのはじめての自著というのは「郊外へ」でありましょうから、新刊案内紙
は、白水社特集の「出版ニュース」となるようです。「回送電車」は、いまでは文庫
で読むこともできます。

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)

回送電車

回送電車

 最近は、ほとんどお菓子のためにつくられていると思われる紅玉でありますが、
適度な酸味というより、かなり酸味が強いりんごで、あまりそのまま食べる人はいな
いようであります。当方も規格外のものを大袋にいっぱいを購入するのですが、ほぼ
すべてを煮りんごとするのでありました。