長谷川四郎さんは、シベリアで出会った作家から紹介をうけた詩人や作品を、ルポの
なかで取り上げています。
三省堂新書の「シベリア再発見」では、案内してくれた作家は「ワシリー・エフィー
メンコ」とあります。
以下は、「シベリア再発見」からです。
「翌日、エフィーメンコが私を宿屋に訪ねてくれた。ハバロフスクへ行く日本人作家は
たいてい彼の世話になると思う。
『アスラモフという詩人がここに住んでいますか。』私はきいてみた。
『いや、ハバロフスクではない、たしかコムソリスクに住んでいると思う。ここで会え
る詩人は、そうスモリャコフがいる。もう年とった詩人です。と言って、私たちよりは
若いですがね。』
『詩人は年をとらない、といいますものね。』
『さあ、でかけましょうか。』
宿屋を出て広場を横切って少し行った所に小さな本屋があり、そこで『極東』という
雑誌をもらった。エフィーメンコはその雑誌をめくって、スモリャコフに関する記事を
見つけてくれた。記事のなかにこの詩人の作品が引用されていて、読んでみると、次の
句が目にはいった。
鳥はおかしな連中
氷にびっくりして
南に飛んでいく
それからよく調べ
間違いに気がついて
春がくるとまたもどる
捨てた入江に。」
スモリャコフという詩人がどのくらいの人であるのかわかりませんが、毎年、渡り鳥
の季節となりますと、長谷川四郎さんが翻訳して、紹介されたこの詩のことを思いだし
ます。
この詩は、その後、長谷川四郎さんの訳詩集「風の神の琴」の冒頭を飾ることとなり
ます。
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「七年前の1966年夏、少しばかりシベリアを旅行しましたが、その時、この旅行の起点
ともいうべき極東ソビエトの首都ハバロフスクで、ステパン・スモリャコフという詩人
と出会いました。・・この詩人が朗読してくれた詩の一つが『鳥』でした。ほかにも
長い詩を朗読してくれましたが、むずかしいので訳すのをあきらめました。極東ロシア
の小さな村にうまれた人で、自然をうたった多くの詩を書き、私より六つか七つ若いの
ですが、先年亡くなったと風の便りにききました。」
肝心の小説「カダラのビール」までたどりつくことができずです。しかし、長谷川
四郎さんの仕事には、こういうほとんど日本では無名詩人の作品紹介ということも
あったのでした。