最近買った本 2

 これまで丸谷才一さんの対談集は、ほとんど手にしていませんでしたが、今回の文庫
本には、えりすぐりの対談が収録されています。
 文学者へのインタビュー記事としては、里見とんさんへのものと堀口大学さんへの
ものが収録されています。どちらも当時としては長命な文学者でありましたが、丸谷
さんは、臆せず大先輩に質問をぶつけていきます。丸谷さんにも、こういう時代が
あったのですね。
「里見さんの小説の中で、私が特に好きなのは失敗者の生涯を書いたものです。
『T・B・V』とか『文学』『極楽とんぼ』とか、失敗者の一代記をお書きになるの
がお好きでしょう。・・でもなぜ、失敗者に愛情を抱かれるんでしょうかね。」
 との質問に対して、里見さんの答えです。
「ウーン。自分が、養家から貰った金でムチャクチャ遊んだだろ。夜遅く帰ると、いや
にリゾールくさい。『何だい。こんなに家中臭くしやがって、何しやがったんだ』
なんて怒鳴ると、家内が家でお産したんだな。
 そんなこともすっかり忘れて遊んでいる自分にもあんまりいい気がしなくて、今、
体が丈夫だからこうしているけど、病身だったらどうなるだろう、という考えから
出た小説だ。」
 どのくらいのお金をもらっていたのかわかりませんが、とにかく徹底して遊んでいた
ということが、この短いやりとりからもうかがうことができます。最近も格差のこと
がいわれますが、里見さんのところは、めでたく蕩尽してしまったようで、その結果
として小説が残ったのかもしれません。