チャトウィン元年 4

 篠田一士さんは、「新しい旅行記をもとめて」でチャトウィン旅行記をとりあげ
たあとに「チャトウィンは二冊の旅行記を書いたあと、小説家に転身した」と書いて
います。こうなると、どこかで篠田さんがチャトウィンの小説についてふれていない
かとさがしてみたくなりました。ということで、スクラップブックをだしてきて、
見てみたのでありますが、本日の調査では、見出すことができずでした。これはまた
の機会にであります。 
 チャトウィンの作品は少なく、刊行されたもののほとんどは翻訳されているようで
すから、時間をかけて読んでいくことにいたしましょうです。
いまのところ、「ウッツ男爵」に続いて購入したのは「どうして僕はこんなところに」
の文庫本でありまして、こういうのが文庫となっていたとは、まるで知らずでありま
す。ほとんど角川文庫はマークしていませんですからね。
 チャトウィンが亡くなった年に刊行された自選集となります。
これに収録の文章は、いずれも短いものですから、チャトウィンの世界への絶好の
入門書となるのでしょう。あちこちを旅したチャトウィンは、各地で風土病に罹患し
たようです。
 たとえば、「ケヴィン・ヴォランズ」という文章の書き出しは次のようになります。
「1986年の夏、私は苦しい状況で『ソングライン』を完成させた。中国である種の
菌類が骨髄を冒す奇病をわずらったためである。死を覚悟した私は、原稿を書き上げ、
あとは医者の手にゆだねようと決意した。そこまでやり遂げれば、思い残すことはな
い。
 原稿の最後の三分の一は、論旨を裏づけるための夥しい引用と小文からなっていた。
私は猛暑のさなか、肩掛けにくるまり、キッチンのレンジの前で寒さに震えながら、
この部分をまとめあげた。時間との闘いだった。」
 この時は、奇跡的に回復したのでありますが、結局は旅先でもらった病気によって、
1989年に亡くなるのでありました。

どうして僕はこんなところに (角川文庫)

どうして僕はこんなところに (角川文庫)