本日持参した本

 本日は年に一度の健康診断でありました。バリューム検査はないものの、

血液とかの検査がありますので、昨晩から絶食して臨むことになりです。

密になるのをさけるために、時間差で集合時間を指定されます。

 当然のこと検査の間に待ち時間があるだろうということで、薄い文庫本

を持参することになりです。昨日にブックオフで購入した次のものです。

暗渠の宿 (新潮文庫)

暗渠の宿 (新潮文庫)

 

 西村さんの初期作品集となります。中毒性の強い西村作品ですが、作中の

主人公にはほとんど感情移入ができないのでありますが、読んでしまうのは、

当方の場合においては、ただただ作中の主人公が藤澤清造の全集を刊行する

ために、ものすごい情熱を注いでいるからであります。

 ほとんど偏執的に資料収集をしているのですが、これがコレクターの生態

を描いているように思います。西村さんの藤澤清造ものの収集ぶりがわかる

くだりを引用です。

 上野の聚楽のネオンの真下あたりのスペースでやっていた古書展のような

ものに行きあったときのことになります。(「暗渠の宿」からの引用です。)

「比較的近代文学関係の本が点在している棚にぶつかったが、その真ん前に

は最前からひとり、背の高い、ジャケットを着た五十がらみの男がたちふさ

がり、棚から抜いた本を何やら仔細げに読み耽っている。・・・

 その男の立ちふさがっているところの本は、やはり見づらい。ならば別に

そこを飛ばして次の棚を見にいってもいいはずなのに、そうなると何かこの

死角に、清造の『根津権現裏』の署名本が、ひっそり隠れているような気が

してくる。この署名入りに関しては、大正十一年の日本図書出版刊の、小島

政二郎宛や、刊行の仲介役を担った、いわば献呈第一番本と云うべき三上

於菟吉宛の、それぞれ伏字をも清造が自筆ですべて起こしたものや、大正15年

の聚芳閣版の、先の川村花菱に宛てた・・書き入れ本等、計六冊をすでに架蔵

しているが、これは一冊あればいいと云うようなものではないので」

 「根津権現裏」に藤澤清造が署名をした本が、いったい何冊あるのかわから

ないのですが、それぞれに伏字を藤澤が自筆で起こしているようだということ

から、とにかく署名本をすべて集めたいというのがコレクターでありますね。

 こうなると自分の命よりも大事なのがコレクションとなるはずですが、この

小説の主人公はコレクションにあまり興味のない女性と一緒に暮らしたりしま

す。そのあげくに、次のように思ったりするのですね。

「いつの日か、私との決定的な諍いが起こり、私の留守を狙って逃亡を図ると

き、もしかしたら行きがけの駄賃にかのガラスケースや、私の命と同等の、で

はない。命そのものの清造資料の一切合財を破棄し、粉砕してゆきはしなで

あろうか。

 そんな妄想が膨らんでくる 」

 貴重なコレクションはどこにいったかということでいえば、先日に読んでい

チャトウィンの「ウッツ男爵」はコレクションが姿を消したのですが、やは

り女性がからんでいたように思います。

根津権現裏 (新潮文庫)

根津権現裏 (新潮文庫)