昨日に続いて、知人から勧められた高崎俊夫さんの本についてです。
高橋さんは映画雑誌の編集者でありますから、専門は映画とそれについての
批評となりです。この本では意識的に古い映画作品についてのエッセイとなって
いるのですが、その昔は、今よりも映画はずっとメジャーな存在でありましたので、
文学者も積極的に映画についての文章を残しています。
この本の第一章は「映画と文学のあいだで」となっていて、文学者の書く映画
ものが話題となっています。
昨日の小沢信男さんも「映画芸術」に寄稿していましたし、山川方夫さんも映画
評論を残しているのですが、高崎さんに大きな影響を与えた文学者となると、それ
は花田清輝さんであるようです。
高崎さんは、「花田清輝の映画的思考とは何か」というエッセイで次のように記し
ています。
「花田清輝の著作をもう四十年近く読み続けているが、まったく飽きることがない。
折に触れて読み返すたびに、さまざまな刺激を受けるのだが、そういう文学者は
ほかにそういるものではない。」
そういるものではないでありますので、いないわけではないのでしょうが、この
ような書き方からは特別感がありますでしょう。
当方よりも年長の方に、このようなことをいう人がいても別に驚かないのですが、
1954年生まれの人で、このように書く人は少ないでありましょう。
高崎さんは、フリーの編集者となってから、近年の「記号分析のような小賢しい
映画批評やら、気色悪い多幸症的なグルメ趣味みたいな文章が跋扈し始めた
ことへの反撥」などから花田清輝さんの映画論集を編むことになります。
高崎さんは「映画エッセイのほうが、一般には親しみやすいだろう」という判断か
ら花田清輝さんの映画本をまとめたとあるのだそうですが、花田さんの文章を楽し
むには、映画についての本がよろしかと思いますが、その昔に「新編映画的思考」を
読んだときには、おもしろいことは面白いのだけど、肝心の映画を見ていないので、
いま一つわからないのでありました。
この本のあちこちに花田清輝さんが見え隠れするようですが、意外なところに顔を
だすのは、次のくだりで、これはちょっと驚きでありました。
「ひさびさに和田誠にインタビューする機会があった。その時に、和田さんが何気
ない雑談のさなか、『僕が一番好きな評論家というのはねえ』と言いだした。
私はそれまで、和田誠のエッセイ集をかなり読んでいたので、恐らく、植草甚一か、
双葉十三郎、野口久光、あるいは淀川長治あたりだろうと想像していた。しかし、
和田さんが口にしたのは、まったく意外な名前だった。
『花田清輝なんだよ』」
あんなシンプルな描画をする和田誠さんが、レトリック満載の花田清輝が好きであ
るというのは、この本での一番の収穫でありますでしょう。