ブッキッシュな世界 4

 池澤さんは「ブッキッシュな世界」に住んでいる人のようでありますが、一カ所に
定住することのなく、あちこちで生活をしていますので、蔵書などはどうしているの
でありましょう。定期的に処分しなくては、あのように移動することはできないで
しょう。
 あくまでも池澤さんは「読書癖」でありまして、「蔵書癖」ではないのでした。
「読書癖」ということば、この本で初めて知るものですが、池澤さんの造語となる
ものでしょうか。あとがきには、次のようにありました。
「暇な時に手近な本に手を伸ばし、忙しい時におもしろい本にひっかかって舌打ちを
する。旅で地方都市に行けば、名物料理おみやげ古道具の類は頭から無視しても古本屋
はついついのぞく。
 つまり読書や本との交際は趣味や義務や仕事ではなく、性癖なのだ。暇をもてあまし
て貧乏ゆすりをする者がおり、身代を博打でするうつけ者がおり、さんざ女に騙されて
も好色の気の抜けない道楽亭主がいるのと同じように、世の中には本というものにから
めとられる人生もある。つまりは癖、読書癖というものではないだろうか。
 本当ならば『紅楼夢』のひそみにならって『書迷』とでも呼びたいところだが、あま
り勝手な造語はつつしんだほうがいい。」
 「世の中には本というものにからめとられる人生」であります。本が好きというのも、
過ぎたるは及ばざるでありまして、ほんと本癖がわるいんだからであります。
本癖の悪い男と一緒になった女性は、一生後悔するなんていわれたりして。