月が変わって 5

 昨日に手にしていた本についての続きです。
 先月からに引き続きで後藤明生さんの本を手にしています。

 後藤明生さんの代表作の一つでありますが、刊行されたのは1981年のことでありま
す。
 以前に拙ブログでは、後藤さんの「小説の快楽」より、次のところを引用しておりま
した。
「わたしの大阪在住を谷崎研究のためと早合点する知人もいるようである。
私は、旧植民と生まれのコスモポリテースで、日本中どこへいっても、根無し草である。
私はこれを、偶然の場所への漂着者であると自称して、そのときそのとき漂着した場所
を、これまで作品に書き残してきた。移住地を作品の場所とする点で、私は荷風型では
なくて、谷崎型であるかもしれない。」
 先月に話題としていた「しんとく問答」などは、大阪連作集であるのですから、まさ
に「移住地を作品の場所」としているのでありまして、谷崎型らしいといえるかもしれ
ません。
吉野太夫」は、「中仙道道追分宿の遊女」のことを取り上げているのですが、この
追分に後藤さんは、「夏の小屋」を入手したことにより、「移住地を作品の場所」とす
るにいたったのであります。
 当方は、まだ後藤さんの「吉野太夫」の途中でうろうろとしているのですが、この
作品には、珍しく後記がありまして、そこには引用させてもらった本として、次の
ものがあがっていました。
室町小説集 (1973年)

室町小説集 (1973年)

 引用しているのは、この「室町小説集」に収録されている「吉野葛・注」からであり
ました。「吉野太夫」だから「吉野葛」なのかなと思ったりしますが、もちろん、これ
は谷崎スタイルに後藤さんがならっているからであります。
 それにしても、この作品で花田清輝さんの「吉野葛・注」を眼にするとは思わなかっ
たことであります。