馬淵美意子のすべて 2

 昨日の刊行者のごあいさつにあったように、詩人であった奥様がなくなったのを機に
編まれた文集が「馬淵美意子のすべて」となります。
 昨日に引用したところの続きの部分です。
「手文庫の中には、未発表の詩、散文、エッセイ、日記と未完の小説などいっぱい
入っていました。馬淵美意子の本領としての詩との比重から、相当数の散文などの割愛
を余儀なくされましたが、一応私なりに彼女の全貌に近いものを浮彫し得たかと考えて
居ります。唯戦中戦後の相継ぐ引越によって、忘れられ失はれたものの多かったことが
心残りです。
 表紙に使用した布、結城紬二枚、薩摩上布、黄八丈、絽縮緬の五枚の着物は、私と
一緒に過ごした四十年間愛用し続けたものばかりであります。今にして思へば、これら
がすべて形見分の遺言から外されていたのが不思議でなりません。」
 ということで、この本の表紙には、故人が愛用していた着物の端切れが貼付けられて
います。当方のものは、茶色の布ですが、これは紬でしょうか。
 表紙を開きますと、馬淵美意子さんの生前のサインがあります。もちろん亡くなって
いるわけですから直筆ではないのですが、いかにも万年筆でサインしたように見えます。
次には口絵として、庫田叕さんが描いた馬淵美意子さんの肖像が掲載され、そして目次
が始まります。
 詩、散文、エッセイ、油絵、日記、書簡、書、跋(草野心平)、年譜、アルバムという
構成で、全400ページほどになります。
 昨日引用した宇佐見英治さんの文章にもありましたが、「女性では恐らくこれほど知性
の高さを感じさせる詩人はいないであろう。散文も腰が強く、清冽」ということで、
エッセイというとなんとなく読みやすい雑文をイメージすると、まるであてがはずれます。

 絶望の礎の上に、虚構の柱をもって
 組み立てられねばならぬ夢
 
 虚妄の根に、いかに真実を
 花咲かせねばならぬかの希望

 人間の生涯は、いいえ私の生涯は
 この前提を解決できないまま
 解決されようとしている