返却の旅 3

 漁村の旧家に残っていた古文書を借りたりしていたわけですから、返ってきませんと
どうなっているのかと問い合わせがでますよね。調査にあたった人が、借用書を残して
いた場合には、その方のところへ、それが不明の時には、水産庁へと返却するように
との連絡が持ち主からはいったそうです。
 網野善彦さんのところにも、そういう電話はあったとあります。
「私はこのころ突如、和歌山県史編纂のおそらく事務局の人と思われる方から電話をも
らい、あたかも文書の『盗人』のような悪罵を頂戴した。県史編纂の過程で、宇野氏を
はじめ月島分室時代の借用されたままの文書のことが現地で問題となったため、このよう
なことが起こったのであろう。私の場合は誤解がとけてその後、電話はなかったが、三田
の研究所の河岡氏はさまざまな形で大きな圧力をうけたと、後に語っていた。」
 借りた物を返さないのでありますから、その間にほとんど説明がなされていないとすれ
ば、どういわれてもしょうがなしであります。
 こうした状況を放置することができずで、「水産庁は1967年に借用文書返却のための
費用として、一年限りの条件で予算をつけた。所蔵者からの催促が水産庁にも集中した
ため、このような措置がようやくとられた」のだそうです。
 もちろん一年限りで返却ができるはずもなしで、網野さんがこの作業の大きな山を
こえたといっているのは、1990年代も半ばをむかえた頃のことです。