最近の雑誌から

 先月から今月にかけては、本屋に足を運ぶことがほとんどできていなくて、新刊で
購入したのは、先日に話題にした小林信彦さんの「森繁さんの長い影」と岡崎武志さん
の「蔵書の苦しみ」のみであります。これではいかにもひどいことでして、もうすこ
し本屋さんへと足を運んで、新刊を購入しなくてはいけません。
 本屋にいかなくても自宅に届くのは、本を配達してくれる本屋さんと、出版社のPR
雑誌がメール便で送られてくるからでありました。
 そういうわけで、最近届いた雑誌で目についたものです。
 「本の雑誌」8月号は、東京創元社の代表であった戸沢安宣さんのインタビュー記事
にあった、中井英夫さんをめぐるところです。
 中井英夫さんは、相当にお付き合いがたいへんであるように思いますので、よほどの
編集者でなくては、近づくことはできなかったようです。戸川さんは、中井さんについ
て、次のようにいっています。
「中井さんも鮎川さんと同じで、つきあいがものすごく長い割に、纏まった作品はいた
だけなかった口ですから、独居老人をお世話するというのは、これは宿命なのかな。
・・・そのころ中井さんはほとんど仕事が出来ない状態になっていて、・・そのうちに
羽根木の土地のオーナーが立ち退いてくれと言ってきて、かなりの立ち退き料をせしめ
て東小金井に移ったんですけど、まるっきり仕事をしないから食いつぶすばかりで経済
的にピンチなんだろ、そのころ本多君が助手になっていたから電話してきて、じゃ何か
旧作を再刊しようかと・・」
 中井英夫さんの作品を企画したが、これは本人の体調のせいで日の目を見ず、結局
講談社文庫からでていた「とらんぷ譚」を合本して刊行計画をたて、講談社の了解も
得たのでありますが、本多さんから伝えられる中井さんの経済状態が、極めて深刻な
状況であったために、創元文庫版「中井英夫全集」ということになったのだそうです。
これの刊行が始まる前に、中井英夫さんは亡くなったのですが、この文庫版全集が
でたことの裏側に、このような事情があったとは、まったく知りませんでした。
( 2017年6月追記 「本の雑誌」2017年7月号の「編集後記」には、上記の戸沢安宣
さんのインタビュー記事には、事実誤認と不適切な表現があったので、雑誌の記事を
まとめた「ミステリ編集道」から、この中井英夫さんについての戸沢さんの発言を削
除しましたとありました。)
 この文庫版全集は、全作品をおさめているものではありませんが、それまで活字と
なっていなかった中城ふみ子さんとの書簡を収録しただけでも、価値のあるものと
なりました。