「図書」と「ブルータス」2

 岩波「図書」と「ブルータス」を同じ日に手にしていたという話でありまして、特に
この二誌につながりがあるわけではありません。
 友人からは、「図書」6月号は楽しく読むことのできるものがいっぱいと連絡がきまし
た。
 冒頭には川崎賢子さんの「踊りは水木」という文章があります。表題は、久生十蘭の作
品「野萩」の一節だそうですが、「踊りは水木」ということの意味するところをわかる方
は、そうとうの方でありますね。
 川崎さんは、「十蘭の小説はぜいたくで、さりげなく言及される物の名、固有名から
とりどりに物語がたちあがる。仕掛けもある。おろそかには読めない。」と記していま
す。おろそかに読めないというのが、どういうことかというのは、「図書」6月号の川崎
さんの文章にあたっていただくしかないのですが、この文章は、川崎さんが編集を担当
された岩波文庫久生十蘭短編集」に収録した「ユモレスク」とそれの異稿ともいえる
「野萩」を論じて、久生の「自作を反復しつつつくりかえる改稿への欲望」を解き明か
しています。
 こうした久生十蘭の姿を明らかにすることができたのは、国書刊行会からでて、最近
完結した「定本 久生十蘭全集」全11巻 別巻1であるとあります。
「書肆、編集者も含めいずれ劣らぬジュウラニアンが結集し、『しみったれたことや薄手
なことはなによりきらい』なチームが力を尽くして、構想十年、全集は無事完結した。
このご時世にこの規模の個人全集が刊行できたことは僥倖である。」
 久生十蘭の最初の全集は1969年から1970年にかけての三一書房版ですが、これの編
集の主導的な役割を果たしたのは「中井英夫」さんでありまして、今回の定本全集は、
中井さんの眼鏡にかなわず、三一版で収録されなかったものも取り込んで、文字通りの
定本となったということが書かれています。
 川崎賢子さんは、「長谷川兄弟」がデビュー作ではありましたが、最初のテーマは久生
十蘭であったとあります。
「卒論からつきあいつづけた作家である。定本全集完結でようやく卒論のあとがきを仕上
げたような感覚を味わった。ここが次の出発点なのだろう。」
 そうなのか、久生十蘭が卒論のテーマ(?)で、その調査の過程で函館つながりとなる
長谷川兄弟に注目をしたのであったのか。