年の初めの 10

 「アイちゃん」ほどかどうかはわかりませんが、斎藤愼爾さんも中井英夫さんの圧倒的
な影響下にあったはずです。この「永遠の文庫<解説>傑作選」から中井英夫さんの面影
を探るというのは、遺跡の発掘のようなものかもしれません。
 「虚無への供物」とか「黒鳥譚・青髯公の城」についての解説は、地上に姿をあらわし
ている遺跡でありまして、表土のすこし下にあるのは、今となってはあまり知られること
のなくなりつつある、かっての中井英夫さんの業績であります。
 文庫本解説のなかに中井英夫さんの名前が登場するのは、次のものです。
 中城ふみ子 「乳房喪失」 角川文庫 1961年7月刊 解説 宮柊二

 昨日引用した相澤啓三さんの文章には、「私が雑誌編集者中井英夫に出会ったのは」と
ありましたが、歌人 中城ふみ子を歌壇デビューさせたのは、編集者 中井英夫さんで
ありました。これまた、以前に話題にしていたことがありました。
http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20080217
http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20080218
 角川文庫の「乳房喪失」の解説で宮柊二さんは、川端康成さんの「乳房喪失」の巻頭に
寄せた文章を引用しています。
角川書店が『短歌』を発行しているのを幸い、角川氏に頼んで、しかるべき歌人の鑑読
を乞い、及第すればということにした。
 角川書店では宮柊二氏に高閲の労を煩わした。そして『短歌』に掲載すると吉報が
あった。ところがその吉報の前日か同日の朝、日本短歌社の『短歌研究』四月号が、特に
中城ふみ子さんの『乳房喪失』五十首を読めとの、編集の中井英夫氏の手紙とともに、
私の家にとどいた。『短歌研究』を見ると、『乳房喪失』は第一回五十首募集の特選に
なっている。・・
 中井氏は私がすでに中城さんの歌を読み、そのために動いたとは夢にも知らないことで
ある。私は不思議な偶然と因縁とにおどろいた。」
 川端康成さんに「短歌研究」四月号を送った中井英夫さんが、「その時点で川端康成
そのために動いたとは夢にも知らない」と記されているのですが、「黒衣の短歌史」には
どのように書かれていたでしょう。ピンポイントのように川端さんに送った中井さんの
ほうが一枚上手でありますが、それを知っていたかどうかを調べるというのは考古学の
領域であるのかもしれません。
黒衣の短歌史 - 中井英夫全集 第10巻 (創元ライブラリ)

黒衣の短歌史 - 中井英夫全集 第10巻 (創元ライブラリ)