小樽にゆかりの 14

 瀧口修造さんの作られたオブジェ(?)で一番有名なものは「リバティ・パスポート」
と称される小さな手製冊子でありまして、今回の「瀧口修造展」では、実物を見ること
ができたことが収穫でありました。
 この「リバティ・パスポート」というものを知ったのは、大岡信さんの文章において
でありましょう。(大岡信さんの「文学的断章」にあったのではないかと思い、いま手に
してみたのですが、すぐには見つけることができませんでした。どこであったろうか。)
 今回話題にしています飯島耕一さんの短編小説集『冬の幻」所収の作品「主のない家」
には、この「リバティ・パスポート」についてでてきます。
瀧口さんは「詩人よりも画家や舞踏家のほうを向いていて、詩人を見る眼には何か翳が
ある」というのに続いてのくだりとなりますが、飯島さんのことをどう思っていたのか
という疑問を抱いてのことです。
「それにしても、十一年前、藤堂が大学の在外研究員として、はじめて渡欧するときに
は、Tさんはリバティ・パスポートと名づけた手製のパスポートを何夜もかかって作っ
て、そこにいろいろなイメージやことばを描き込んで手渡してくれていた。
そのパスポートを作るためにTさんはまた徹夜をしたのにちがいなかった。そのウィット
に富み、繊細さにみちた手作りの小冊子には、Tさんの人間が滲んでいた。Tさんが藤堂
を疎外しているわけがなかった。もしそうだとしたら、どうしてこのようなオブジェと
してのパスポートを徹夜して作ることができるだろう。」
 この「リバティ・パスポート」というのは、副題を「詩人旅行必携」というふうに訳
されるものでありまして、これについての説明は、みすず書房からでている「余白に書
く」の別冊にあります。
 解説は大岡信さんです。
「この本の中には私あての短文も収められている。たった一行だけの謎々めいた短文で
ある。これには理由があって、もともとこの一行は1963年秋に私が渡欧する際、瀧口氏
が丹念きわまる手仕事によって作成し旅のはなむけとして下さった小さな私製パスポート
(称して『リバティ・パスポート』)の一ページに書き込まれていたものである。
他の各ページには、瀧口氏が好む西欧の詩人や画家の詩文の断片が、美しい手造りの
絵模様と一緒にちりばめられていた。」
 この「リバティ・パスポート」を瀧口さんからおくられるというのは、そうとうに
名誉なことであったのでしょう。