林達夫の中公文庫三冊目は「思想の運命」となります。
- 作者: 林達夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1979/11/10
- メディア: 文庫
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一番古いものとなります。「歴史の暮方」「共産主義的人間」という二冊が、ともに
時局にかかわる文章によって有名であるとすれば、これに収録の文章には、そうした
ものはないのですが、一番林さんらしい文章が収められています。
林さんの本来の仕事というと「思想の運命」の序には、次のようにあります。
「自分の主たる仕事と極めた西洋文化の歴史的研究と批判的摂取」、これに続いては、
「文化や思想の問題はどんな際にも政策追従的に即決すべきではなく、良心的にじっくり
処理していかねばならぬというのが私の信条」ともあります。この序は、1939年のもの
でありますが、ここに記されていることは、今も人文学の取り扱いをめぐる課題となって
いることであります。
ちなみに自らのスタイルについてであります。
「私の友人の一人が最近私に向かって、私という人間は物を書けば何かしらいつも穴填め
仕事のようなことをやっているという意味のことを言った。なるほど気が付いてみると、
私の書いた文章にはそうした性質のものが割合多いようである。私はどんな学問的流派、
どんな思想的陣営だろうがそこに出来上がっている正統的意見とか常套的やり方という
ものに対しては、人一倍警戒する念が強い。・・・
そこでたまに何か書かなければならない羽目になると、つい定説とか通念とかの欠陥や
空隙を書くようないわば『反対派』的な啓蒙的文章を書く始末になるのである。」
洋学派である林達夫さんが「反対派的な啓蒙的文章」というのは、当時に国内の哲学
の主流でありましたドイツ哲学に対して、フランス哲学に軸足をおいて牽制球を投じる
ことでありましたろう。