本日の本 5

 林達夫さんの「思想の運命」を手にしているのですが、「私の家」という短い文章で
もずいぶんと楽しめることであります。
 家をつくるのにこれだけ凝るのでありますからして、家の中の家具などについても、
当然のことこだわりがあったようです。最近でありましたら、海外からアンティークの
家具なども輸入販売されているようですが、いまから70年も前でありますと、そういう
ことは一般的ではなかったようです。
  林達夫さんのお宅について書いた飯沢匡さんの文章からの引用を続けます。
「母屋の書斎に入ると、その天井の高さは正に本格、英国建築で、中部イングランド
俤が十分にあった。家具調度も、彫刻入りの古雅な堅木造りで、大きな箪笥におなじみ
の典型的な文様がついていたのでその名を伺うと『リホン・フォールド』と教えてくだ
さった。『こんなのは昔は芝の田村町あたりの家具屋に彫る職人がいたのですよ』と
よき時代のことを、語ってくださる。」
 書斎の机は、かって僧院で使われたものを模したと、どこかで書いていました。
それにしても、このようなことが可能となるには、ずいぶんと予算が必要となったこと
でありましょう。銀座にラスキン文庫を開設した御木本令息とは比べるべくもないの
かもしれませんが、林達夫さんを思想を支えたのは、こうした経済的な豊かさであった
ように思われます。それをいっちゃおしまいよではありますが。