みすず読書アンケート 5

 この読書アンケートにあげられている本には、昨年に刊行されたものもあれば、
すでに大古典といってもいいようなものもあります。
一番刊行年が古いものはなんであろうかと思いましたら、プラトンの「ソクラテス
弁明」をあげている方がいらっしゃいました。フランス文学の宮下志朗さんであり
ます。光文社古典新訳文庫 2012年のものです。
「明快な訳文と、六〇ページもの解説を読んで、初めてソクラテス裁判に納得がいった
ように思う。」とあります。
 これ以上に、古いものをあげている人はいないでしょうね。このようなものがとり
あげらるのも新訳がでたからでしょう。

ソクラテスの弁明 (光文社古典新訳文庫)

ソクラテスの弁明 (光文社古典新訳文庫)

 その一方で、次のように書いている人もいらっしゃいます。
「 デフォー『ロビンソン・クルーソー』 野上豊一郎訳 岩波文庫 昭和21、22年
 この翻訳は、敗戦後間もなく出版されたが、十数年にして新しい翻訳に取って代わ
られて、今はその存在を知る人も稀であろう。しかし読み直してみると、翻訳としては、
これに取って代わったものと比べて、必ずしも劣っているとは思えない。
 翻訳とは、原作を正しく、じゅうぶんに理解して、適切な日本語におきかえる作業で
ある。旧仮名遣いということもあって、この翻訳はたちまちのうちに、その表現が適切
でないとされて、棄てられてしまったわけであるが、原作の理解においてはかなり優れ
たものであった。・・・
 今は、読みやすいように新しい翻訳をだすことが流行しているようであるが、古い訳
をじゅうぶん参考にして、よい訳にするべきであって、そうするならば、既訳との共訳
のようなものになるであろう。欠点のない、まったく新しい訳ができるなどということ
は考えられない。」
 これは、イギリス文学者 橋口稔さんのコメントであります。橋口さんは、この一冊
のみをあげています。
 野上豊一郎という名前は承知していますが、この方が「ロビンソン・クルーソー」の
翻訳者であったというのは、はじめて知りました。夫人のほうが長命であったせいも
あって、影が薄くなっていたように感じていました。
 旧仮名づかいというのは、目でみるととっつきが悪いのですが、耳にすると当然なが
ら問題にはならずであります。当方が古い岩波文庫の「小公子」若松賤子訳を知った
のはNHKFMでの朗読番組でありまして、昔の翻訳のほうがリズムが良くて耳になじむ
なんてことがあるのではないでしょうか。
 それにしても、旧仮名遣いというだけで、捨て去られた時代があったということで
ありますね。当方が手にした岩波文庫は、もちろん現在流通しているほうになります。
ロビンソン・クルーソー〈上〉 (岩波文庫)

ロビンソン・クルーソー〈上〉 (岩波文庫)