夏の一冊 5

 本日は電車で移動をしていましたが、これの車中では光文社古典新訳文庫
「新アラビア夜話」を手にしておりました。

新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)

新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)

 かっての岩波文庫の翻訳者である佐藤緑葉さんは、序文で「『新アラビア夜話』
は前後七編から成る短編の連続であって、話の筋は大体個々独立しているが、其中を
貫いてでてくるボヘミヤ王子によって各篇が結びつけられ、そこに『千一夜物語』に
似せた形の面白味を見せたものである。ここに選んだ三篇は其中の特に興味深いもの
のみであって、現代人に訴へる『新アラビア夜話』の面白味はこの三篇に尽きると
いっても差し支へなかろう。」と書いています。
 たしかに話としては、ここに掲載の三作は面白いのでありますが、「医師と旅行
鞄の話」という一作だけを読んでも、なんとなく釈然としませんでしたので、この
連作は、すくなくともこの光文社古典新訳文庫のように「自殺クラブ」という表題の
もとでの三作を収録したほうが、のみ込めるようであります。
 「あしながおじさん」のヒロインが夢中になって読んだスティーヴンスンの作品の
なかにこの「新アラビア夜話」があったものかどうかわかりませんが、あの作中で
取り上げられるほどの人気作家であったということがわかります。