1972年12月のメモから 3

72年12月に購入したもので一番の高額なものは、渡辺一夫著作集の一冊でありますね。
2500円とありますが、たぶんこれは「偶感集」というエッセイを集めた巻の一冊でしょ
う。渡辺一夫著作集の他の巻は、当方には高級すぎますので、うんと安く入手できた巻と
この偶感集(の三冊)しか持っておりません。渡辺一夫さんの本に手がいったのは大江
健三郎さんの影響でありまして、この時代は、まだ大江健三郎さんにいかれていたので
した。
 72年は、著作集がでてまもないころでありましたので、古本となっていても、値段が
高かったのであります。40年たったいまのほうがずっと安いようです。渡辺一夫を読も
うなんて若い人はどのくらいいるのでしょうか。加藤周一さんの小説「ある晴れた日に」
には、渡辺一夫さんをモデルとした人が登場しますが、この小説の序は渡辺一夫さんが
書いておりました。(この「序」は「偶感集」に未収録のようです。)

渡辺一夫著作集〈10〉偶感集 (1970年)

渡辺一夫著作集〈10〉偶感集 (1970年)

ある晴れた日に (岩波現代文庫)

ある晴れた日に (岩波現代文庫)

 渡辺一夫さんの序から引用してみましょう。
「晴れた日々は、今までもあったし、太陽系に異変が生ぜぬ限り今後もあるであろう。
そして、その日その日に色々なことが起こっているし、また起こるであろう。狼星の
高みから見ればいずれもとるに足らぬ小事件であろう。しかし我々は、この不潔で
小さな地球に住んでいる。その日その日に起る事件 否我々が起す事件の為に、多くの
場合苦悩と涕泣と流血のなかにたたきこまれるのだろうと思う。こうした自業自得の
苦患を少しでも減らそうと願うことこそ、生きる道と考えてはならないのであろう
か?」