今月の「図書」から 2

 12月というのはなんとなく気持ちが大きくなって高いものなどを買ってしまいそうで
あります。高いものといっても、当方の話でありますからして、知れているのですが、
いつもであればしばし考えてしまう定価3000円台の本も、今月は勢いでレジにもって
いきそうです。
 さて、そういう気にさせる新刊の案内はあったろうかです。今月の新刊または復刊で
は価格の高い本が目につきました。たとえば、次のものです。

 坂口安吾の熱心な読者にとっては、高いとか安いとかいってられないものでありま
しょう。この別巻が刊行されるまでにどのくらい準備がかかったのかわかりませんが、
とんでもなくお金がかかったものになっていると思われます。
この別巻の広告があった「ちくま」12月号には、「全集未収録の作品を多数収録。安吾
文学の全体像を浮き彫りにする一巻。全巻完結。」とありました。
安吾の世界には縁遠い当方でありますが、相当な苦戦をしてなんとか完結したことには、
拍手をおくらなくてはいけません。
 もうひとつ目についたのは岩波「図書」12月号にあったものです。「図書」には「インド哲学史の主流をなすヴェーダーンタ哲学の歴史解明に挑んだ中村元
博士の主著、待望の復刊」とあります。元版はどのようなものかと思ってみましたら、
これが珍しく書影つきででてきました。 もともとは中村元博士の「インド哲学思想」全5巻の一冊になりますが、今回は全5巻
の復刊で、セットでは89,250円となるとのことです。
 この復刊は、11月のことでありましたが、11月号では記憶に残らなかったのに、今月
に目についたのは、「図書」12月号の「こぼればなし」(編集後記)が、今年生誕百年
をむかえる中村元博士についての記述で終始しているからであります。
 この「こぼればなし」は、中村元博士の残した蔵書を散逸させないように弟子たちが
奔走した結果、生誕百年を記念して記念館が郷里の松江にできたという書き出しになり
ます。(記念館のページに博士の紹介がありました。
http://www.nakamura-hajime-memorialhall.or.jp/about.html )
これにつづいて「こぼればなし」では、中村博士と岩波書店のつながりが話題となりま
す。
中村元氏と小店との関係ははるか戦前にさかのぼります。1942年30歳に満たない年
で、世界水準の学位論文『初期ヴェーダーンタ哲学史』を完成させた氏を岩波茂雄
引き合わせたのは、中村氏の恩師であり偉大な仏教学者であった宇井伯寿でした。
この青年学徒の奇跡的な大著はただちに小店より刊行されるはずでしたが、戦火が激しく
なったために果たせず、刊行は1950年から56年にかけて、全四冊としてようやく実現
したのでした。」
 博士は1912年生まれですから、56年であっても44歳でして、驚くほかありません。
この全四冊が、全五冊となるには三十年を超える歳月が必要でした。
「論文執筆から四十年以上、書物としての刊行からも三十年以上たった1989年に
シャンカラの思想』が刊行され、先の四冊に加えて『インド哲学思想』全五巻として
新たな『完結』をみます。この間、本書の真の完成をめざして、氏の粒々辛苦がずっと
続けられていたのです。氏の持続力・忍耐力には驚くほかありません。」
 文字通りの碩学の代表的な著作の復刊となります。
「生誕百年の今年11月、小店はこの大著作を久々に復刊しました。このような書物を
再び私たちのバックリストに加えることを誇らしく思います。ぜひ一度実物を手に
とって見ていただきたいと願います。」
 この「こぼればなし」を見ますと、どこかで一度このセットを手にしてみたいと思い
ます。当方にとっては猫に小判ではありますが、これまた高いとか安いとかいう次元の
話ではないようです。