創業40周年 7

本の雑誌」掲載の高橋良平さんの文章に触発されて「国書刊行会」の内容見本を話題
としております。昨日までは「世界幻想文学大系」内容見本の表面を掲載していました
が、これの裏面に「堂々たる幻想文学系統樹聳え」ているのでした。これまた大きな
系統樹であるうえに、紫色の地に白抜き文字となっていて、すこし見にくいものです。
うまくスキャナーできていますでしょうか。

 この世界幻想文学地図という系統樹の、両側には刊行のことばと推薦のことばがのっ
ています。推薦のことばは、仏文学者 渡辺一夫さんと詩人 寺山修司さんであります
からして、力がはいっています。渡辺一夫さんはというと、このシリーズにはいってい
る「悪魔の恋」の翻訳者ではありますが。
 ここでは渡辺一夫さんの推薦のことばを見てみることにしましょう。
「暗闇のなかで我々は、思はぬ幻を見る。それは我々の心中に秘められた情念・怨恨・
渇望が闇の力で吸ひ出されるからであらう。真昼間の明るいところでも、心の持ち方
しだいで、木石の声を聞くこともあらうし、葉陰から我々を見つめる瞳を見ることも
あらう。これまたすべて、我々の心中に秘められたものの投射かもしれない。本質的に
不自由であり不完全な人間なればこそ、かうした現象が起こるのであり、恐らく、これ
が人間であるといふ最も確実な証拠となるだらう。幻想文学とは、単にふしぎで奇怪な
点で我々を面白がらせるだけのものではない。むしろ、我々人間存在の奥底への反省を
求めるものであるに違いない。」
 渡辺一夫さんは、旧仮名に拘る方ではなかったと思いますが、これの表記は幻想文学
体系へのものであるからでしょうか。それにしても、この時代の指導者たちが発言する
のを聞いていますと「不自由であり不完全な人間なればこそ」なんてことは、これっ
ぽっちも思っていないようであります。