幸運な医者 3

 松田道雄さんが亡くなったときは90歳になっていたようですが、十分に長命では
ありますが、晩年に書かれたものは、すこし弱さが感じられるようです。これは
やむを得ないのことでしょう。(97歳まで現役であった吉田秀和さんは、すごい
ことであります。その上をいく、日野原さんもであります。)
 87歳くらいの時に書かれた文章に「わが友」というものがありまして、これの
書き出しは、次のようになります。
「長く生きて生を楽しむには、ふたつの丈夫な足場が要る。ひとつは身体、もう
一つは精神。87歳まで楽しくも生きてこられた私の精神を支えてくれたのは、本や
音楽や映画もあるが、友人もそのひとつだ。・・・
 友人という点で私は幸運だった。七十代では富士正晴、八十代では本野亨一、
現在は井本稔と親しくし、している。この三人を紹介しよう。」
 富士正晴さんは文学者、井本稔さんは、著名な化学者です。このお二人とくらべる
と本野亨一さんの知名度は落ちるようですが、当方がその謦咳に接したのは、本野
亨一さんのみでありまして、まさか、松田道雄さんの著作で、本野さんの名前を見る
ことになるとは思いませんでした。