東映ゲリラ戦記 6

 鈴木則文監督のゲリラ路線というのは、はやい話なんでもありということでありまし
た。
 鈴木作品の見所には、ほとんど筋に関係ないところで、役者さんでないひとが顔をだし
たりすることでありました。
 これについて、鈴木監督のいうところでは、次のようにあります。
「 実はこの温泉芸者シリーズは、物語の舞台となる温泉街のロケーションに、芸者と
からむ温泉客役でいろんな作家が特別ゲストとして出演しているのですよ、と話を向け
ると、
『ほう、どんな人たちで?』という。
『前作、温泉みみず芸者西伊豆ロケでは、田中小実昌団鬼六清水正二郎、 まあいず
れも遊びをせんとや生まれけむ系の人たちですが・・』
『じゃあ、俺がでねえ訳にはいかないねえ』
 といともあっけなく簡単に引き受けてくれた」
 「じゃあ、俺が」と男気を見せたのは、その当時に人気作家でありました。笹沢左保
んでありました。
 この笹沢さんは、72年の「温泉スッポン芸者」に、やくざのボス役でちょっとだけで
るのでありますが、その時は「木枯らし紋次郎」を書いていた時で、とんでもなく忙し
かったのだそうです。
 笹沢さんは、その時に、ちょい役について、次の感想をもらしたとのことです。
「『ヤクザのボス、いいですねえ。東映の映画にでるからには、やっぱりその筋の人で
なくちゃあね』と笹沢氏が言ったので一同大笑いとなり、同席していた菅原文太が、
『となると紋次郎で恩義のある俺も出ない訳には』と言ったのですかさず中島(貞夫)に
『となると三人揃った方がサマになるから紋次郎の監督さんにも脇を固めてもらうか』と
言い、笹沢ボスの手下に菅原文太中島貞夫が黒背広サングラスで従うキャスティングが
決定した。」   
 笹沢さんが出演した作品は、見た記憶が残っていないのですが、すっかり忘れているの
かもしれません。「田中小実昌団鬼六清水正二郎」という面々がでていたシーンは
覚えておりまして、たしかこの人たちは、文部官僚かなにかの役をして、温泉芸者を
背中にのせて座敷遊びをしていたように思います。この三人のなかでは田中小実昌さんの
顔だけはわかっておりまして、温泉芸者さんをせなかに四つん這いで馬役をやっている
作家さんに字幕で、文部省の局長とかの文字がかぶったように思います。ちょうど大学
闘争のあとでありましたが、観客にとっては文部省は敵のようなものでして、文部官僚が
情けないかっこうで登場するに拍手がわきおこったようにも思います。