東映ゲリラ戦記 8

 東映ポルノ路線の楽しみは、B級に徹したなんでもありの楽しさですね。
特には、昨日の鈴木則文監督の文章にあったように「ナンセンス、ハレンチな
アイディアにも、どこか人間喜劇的ユーモアが」あったところでしょう。
ポルノ映画というのは、おとぎ話のようなところがありで、しかもそれに人間喜劇
の風味が加わることになります。
 山城新伍さんとかは、そうした時には欠かせない役者さんでありましたでしょう。
あと忘れてはいけないのは、名和宏さんであります。あまりにもキャラが濃いので
テレビ向きではないようで、テレビでは時代劇以外にはほとんどでていないようで
あります。時代劇のファンにはよく知られた存在でありましょう。
 あの時代の東映にはその後に悪役商会として売り出す人たちとか、ずいぶんと
多くのタレントさんがいましたが、斬られ役で売り出した福本清三さんとくらべても
名和宏さんのほうがずっと有名であったはずです。
 いろんな作品にでておられていたのでしょうが、鈴木監督は名和宏さんについて、
次のように記しています。
「『温泉みみず芸者』で稀代の性豪竿師段平を演じて以来、名和宏はこのシリーズに
は全作品出演し協力するといっている男である。日活ニューフェイスとして映画界に
デビューし、松竹京都へ。そして東映へ移籍してきた彼は、社交的で話術も巧みな
プレイボーイ紳士」
 名和宏さんは、このシリーズには竿師段平として登場するのですが、この連載では、
名和さんへの感謝が綴られています。
「このゲリラ路線に協力してくれた俳優陣は、山城新伍小池朝雄三原葉子由利徹
大泉こう等多彩なキャラクター揃いであるが、硬軟使い分けて熱演してくれた名和宏
功績は忘れ難い。
『徳川セックス禁止令・色情大名』の時の閨房禁止令を発令する暴虐の藩主の小倉忠輝
の品格のある時代劇演技と、温泉芸者シリーズの無限精流竿師段平の喜劇限界ギリギリ
の怪演快演は見事であった。
 天尾完次との約束では、この温泉芸者シリーズは、スカウトした新人女優の登竜門と
して必ずわたしが監督し、指南役として必ず名和宏の竿師段平とその門弟二人を登場
させる予定であった。しかし東京撮影所の作品が少ないという社内事情で、温泉芸者
シリーズは東京撮影所に渡され、お上品な『温泉おさな芸者』一作のみでシリーズは
東映のスクリーンから消え、孤影悄然として戦後日本に別れを告げた竿師段平の噂を
聞く者は今はない。」
 「東映ゲリラ戦記」は連載6回目、これまでのところで一番印象的なのは、この
名和宏さんについてのくだりです。「孤影悄然として戦後日本に別れを告げた竿師
段平」というのは、鈴木監督の文章のほかのところに、種明かしがありました。
 この連載で、特に注目は、この名和さんへの監督の思い入れでありましょう。