阪田寛夫全詩集を編む 9

 阪田寛夫さんは伊藤英治さんという良き編集者を得て、全詩集をまとめてもらう
ことができました。普通でありましたら、小説を中心とした散文選集のほうが世に
でやすそうでありますが、散文はまとまることなく現在にいたり、児童詩の世界の人
たちが尽力して全詩集が世にでたわけです。児童文学の世界のほうが狭くて、商売に
ならないぶん、関係者の結びつきが強いのかもしれません。
 最近は、小説家の選集のような企画が通りにくくなったようで、でなくなりました
ですね。最近ではどのようなものがまとまったのでしょう。かっては小沢書店が出し
てくれたりしたのですが、最近に手にしたものでは小沼丹全集(未知谷)とか、大庭
みな子全集(日本経済新聞社)が印象に残っているくらいです。国書刊行会とか未知
谷のようなところしか、期待できなくなったとすると、いかがなものかです。
 以前であれば阪田寛夫さんなども複数巻よりなる散文選集が刊行されても一向に
不思議でないのですが、これに関してはまったく聞こえてきませんです。
そんな売れない企画を、次から次に形にしていたら、とっくに会社はつぶれています
といわれそうです。
 昨日に、阪田寛夫さんは「音楽を理解している数少い詩人」という中田喜直さんの
評を引用しましたが、阪田寛夫さんの小説作品も音楽が重要なテーマとなっています
ので、阪田寛夫「音楽小説集」というのがあってもいいよなと思います。
 当方は、阪田さんの小説作品集では「戦友」が一番好きでありますが、この作品集
には「歌につながる十の短編」と添えられています。これには、阪田さんの代表作の
一つといってよい「海道東征」が収録されていますが、講談社文芸文庫「うるわしき
あさも」にも、この作品集から三編が採用されています。 
 阪田さんは、旧制高校在学中に召集されて入隊していますが高等教育を受けた人に
は珍しく二等兵を経験し、最後まで兵で終わっています。このようなところにも阪田
さんの生き方がうかがえることです。