本日から師走 2

 昨日から引き続いて岩波「図書」12月号に掲載 細見和之さんの「私の留学体験記」
を話題とします。細見さんは学者さんですが、海外留学の経験はないとあります。
「 最初に記したとおり、生涯、私は海外での長期滞在や留学体験はもたないままで
終わりそうだが、思い返せば、あの大阪文学学校での数年の日々が、ほかでもない私の
『留学体験』だったのではないか、という記がしてくる。」
 以前に拙ブログで永六輔さんが「上方文化の勉強のために大阪留学」したとのことを
紹介したことがありますが、細見さんの場合も「違った価値観と異質な日本語」が支配
する空間に身をおいたことを「留学」といっているのでした。
「奇妙な非日常的な空間。その異質な言葉の空間に全身を浸すことによって、私はそこ
で自分が死に瀕した状態から文字どおり蘇生するような感覚を存分に味わった。」
 大阪文学学校で、細見さんが出会った人のことを、幾人か取り上げています。
サルトルの研究者としても知られていた小島輝正さんの明晰な批評の言葉、小説家
川崎彰彦さんのとぼけた軽妙な語り、詩人三井葉子さんの艶やかな言葉、批評家で
詩人の倉橋健一さんの情熱的な論理、詩人青木はるみさんの知的な語り口、当時事務局
を仕切っていた岩手県出身の作家高村三郎さんのすっとんきょうな怒声・・・・。
小島さん、川崎さん、高村さんの三人はせでに故人となられているが、あれらのひと
びとの声と姿は、私の耳に、眼前にいまも彷彿とする。なかでも、朝鮮語訛りの強い
その声の荘重な響きでひときわ異彩を放っていたのが、金時鐘さんで、もしあのとき
文学学校に入学していなければ、私が金時鐘さんについて立ち入って論じることは
なかっただろうと正直に思う。」
 この文章は、今月6日に岩波書店から刊行される細見和之さんの著書
ディアスポラを生きる詩人 金時鐘」にあわせてのものですが、細見さんがこの本で
細見さんの文学の師「金時鐘」について、どのように書いておられるのでしょう。
 金時鐘さんも「図書」に回想記「ひたすら つづらおり」を連載しています。

ディアスポラを生きる詩人 金時鐘

ディアスポラを生きる詩人 金時鐘