旅の空から 8

「樹林」の川崎彰彦追悼特集号には、興味深い文章がたくさんのっているのですが、
川崎彰彦さんというと、反射的に思いだすのは編集工房ノアであります。この特集には、
編集工房ノアの「涸沢純平」さんが文章を寄せています。(それこそ、涸沢さんがこれ
までに発表した文章をまとめて刊行してもらいたいものです。)
 涸沢さんの文章のタイトルは、「在庫有 川崎彰彦著 編集工房ノア刊行本 九冊」
というものです。
「私は、1969年秋、大阪文学学校に入り、川崎彰彦講師の小説クラス生徒となった。
川崎さんの文章スタイルに強く惹かれた。川崎さんの本を出したいと思った。出版とは、
所有すること、コレクションの気分がある。」
 ということで編集工房ノアの最初の刊行物は、川崎さんの「わが風土抄」のはずです。
1975年(昭和50)二月二十五日発行となります。この時には、編集工房ノアを名乗って
いますが、涸沢さんがつとめをやめて、専業となったのは、このあとと思います。
 75年には、高村三郎さんの「境涯準備社」からガリ版刷の「私の函館地図」がでてい
ますが、どちらを先に購入したものか、これは判然としません。(たぶん、「私の函館
地図」のほうでしょう。それを読んでから、「わが風土抄」を購入したはずです。)
 編集工房ノアから、この「私の函館地図」がでなかったことは、痛恨でありますが、
たいまつ社版は、いまでも古本で入手可能とありました。(高村さんによる境涯準備社版
は、ガリ刷りで200部ですから、今となっては、入手はけっこうたいへんそうです。)
 涸沢さんの文章によって、ノアから刊行された川崎彰彦さんの本、九冊の紹介。
 1 わが風土抄 1975年(昭和50)二月発行
 2 虫魚図   1980年(昭和55)十一月発行
 3 月並句集  1981年(昭和56)八月発行
 4 アレクサンドル・ブローク詩「十二」1981年(昭和56)十二月三十一日発行
 5 夜がらずの記 1984年(昭和59)五月発行 ノアの川崎本で唯一の増刷
 6 二束三文詩集 1986年(昭和61)二月発行
 7 冬晴れ    1989年(平成元)二月発行
 8 合図     1992年(平成4)
 9 短冊型の世界 2000年(平成12)
 これらを紹介してから、涸沢さんは次のように文章をしめています。
「以上九冊、歳月を経て、しみが浮いたり、カバー・帯が汚れていたりするものもある
が、すべて在庫有。」
 なんども引用しますが、「短冊型の世界」のあとがきで、川崎さんは、「ノアは私の
ホームグラウンドだから」といっています。ほんとうに売れない作家の著作を出し続け
るのは、たいへんなことであります。