「海鳴り」28号 4

 編集工房ノア主人 涸沢さんによる「海鳴り」編集後記は、一年に一度ということ
もあるのでしょうか、前号からの一年で亡くなった縁の方への思いを綴った文章が
多く見られることであります。
 ノアの刊行物の柱であった方々は、この二十年ほどでほとんどがあちら側へと席を
移した感があります。ことしの28号の後記は、鶴見俊輔さんについてのものでありま
す。鶴見さんにとって編集工房ノアは、関西にあって応援したくなる版元であったの
でしょう。
 それにしても、「海鳴り」28号に掲載されている文章を見ても、人が亡くなったこ
とをきっかけにして書かれた文章が多いのに、ちょっとさびしさを感じることです。
 亡くなったということがでてくる文章には、次のようなものがあります。
 筆者    題名               亡くなった人
 山田稔  「どくだみの花」のことなど     杉本秀太郎
 鈴木漠   風の行方             多田智満子
 中西弘貴  木と水の先に           たかぎたかよし
 渡辺信雄  またとない時間          伊勢田史郎
 多田智満子さんを除いては、みなさんこの一年に亡くなった人だそうです。
杉本秀太郎さんは著名でありますが、伊勢田さんは、ノアから数冊の著作があります
が、当方はこの号で初めて名前が目にはいったように思います。
 「海鳴り」28号の扉ページには中之島公会堂の写真が掲載され、この建物について
の解説がつけられています。
「大正7年(1918年)11月、大阪・北浜の株仲買人だった岩本栄之助の寄付で出来上
がった。」 
 このように書き出されていますが、この文中の「岩本栄之助」の名前が太ゴチと
なっていまして、この建物の紹介文の一番最後に、次の本が紹介されていました。
 「またでちりゆく 岩本栄之助と中央公会堂」伊勢田史郎著を、7月発行予定。
 渡辺信雄さんが「本物の詩人」と呼ぶ伊勢田さんは、昨年(2015)7月20日(86歳)
に亡くなられたとのことですから、この本は遺著ということになり、一周忌にあわせ
て刊行されるようです。
 はからずも7月20日というのは、鶴見俊輔さんが亡くなられた日でもありました。
ノアからは一周忌といっても本がでることはなく、28号の涸沢さんの文章を読みます
と「象の消えた動物園」を手にとって追悼するのが一番ということになりそうです。

象の消えた動物園―同時代批評

象の消えた動物園―同時代批評