旅の空から 9

 関西旅行から大阪文学学校川崎彰彦さん、編集工房ノアと話がつながっています。
 先日の京都で購入した山田稔さんの「日本の小説を読む」には、「1960年代初めの
『よむ会』メンバーの、他の文学グループとのかかわりぐあい、いわば人間相関図と
いったものを考えてみよう。『よむ会』をA、人文研の共同研究『文学理論』をB、
同人誌『VIKING』(月刊)をCとして三つの円を描いてみる。」とあって、この三つに
円の重なりのなかにいる人として、杉本秀太郎さん、高橋和巳さん、山田稔さんの名前
があがっていました。
 これと同じようにして大阪文学学校川崎彰彦さん、編集工房ノアで三つの円を描い
てみるとどのようになるだろうかと思いました。もちろんすべてにはいるのは、
川崎さんとノアの涸沢さんでありまして、もうすこし重なる人をあげることができなくて
はいけませんですね。
 そんなこんなを思いながらいましたら、本日の朝日新聞読書欄には、97歳の詩人
杉山平一さんの新しい詩集「希望」(編集工房ノア刊)が紹介されていました。
杉山さんは、全詩集をノアからだしていて、最近は編集工房ノアがホームグランドです。
本日の杉山平一さんへのインタビューは記者の白石明彦さんでありますが、この方の
名前は、聞いたことがあるなと思っていましたら、今年の一月の朝日夕刊に詩人
井川博年さんの詩集を紹介していたかたでした。
 当方は、編集工房ノアのことを思いながら「海鳴り」15号(2003年4月刊)をひっぱ
り出していたのですが、これには杉山平一さんによる「大阪の詩人・作家たち」という
講演録が掲載されていました。杉山さんの文章に続いては、鶴見俊輔さんの「ノアの
あつまり」という文章が掲載されていますが、この二つの文章は見事なつながりをするの
です。(いずれのものも2000年のものです。) 
 鶴見さんの「ノアのあつまり」は、2000年十月十七日京都新聞掲載の再録です。
「決心してでかけたが、このごろは、あつまりの中で自分が最年長ということが多い。
今日はそうではないという安心感をもってでかけた。
 家を出る前に事典をひいてたしかめておいた。今日の人の中には、私より年長の杉山
平一氏がいて、この人は、私より八歳年長の八十六歳である。
 編集工房ノアの創立二十五年のあつまりだった。
 杉山平一氏は、杖ももたずに演壇にあがって、簡潔な演説をした。
 ノア編集工房の雑誌の題は『海鳴り」という。潮騒は波のたわむれであるが、海鳴りは
それとちがう。沖の向こうで大きな波があり、それが風とあたって、どーんという大きな
音となる。遠くきこえる音である。ノアの編集長は、今日明日の批評にこだわらず、時代
の方向に耳をかたむけているという。そのとらえかたが印象ぶかかった。
 杉山さんは、松江高校に三年いたあと、詩稿をたずさえて東京に出て、二十代の詩人と
して『夜学生』を出した。それから軍隊と会社経営のため文学者として半世紀の空白が
あり、それは軍事としても実業家としても『大敗走』であり、それを小説に書いて再出発
し、上巻・下巻ともに大冊『杉山平一詩集』を出した。映画評論家今村太平の生涯と活動
をえがく伝記は、この人でなくては書けない社会碑的作品である。
 二十代と八十代で文学の煙管(キセル)乗車のような活動ぶりを見せた。・・・」
 東京ではノアのフェアをしているとのことです。すこしでもノアの本が売れてほしい
ものです。
 本日は大阪府知事と市長の同時選挙がありまして、どうやら維新派の新人候補が勝利
したようです。
 足立巻一さんがいうところの「学芸の大阪」はどうなるのでありましょう。